2013 Fiscal Year Annual Research Report
植物における純粋な二酸化炭素シグナル伝達機構の探索
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12J03688
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
門田 慧奈 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 気孔 / 二酸化炭素 / アブシジン酸 / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度では、平成24年度に引き続き変異体の選抜および表現型解析を行った。初期の計画ではアブシジン酸(ABA)応答能または合成能を喪失した変異体に変異原処理を施したM2植物の中から二酸化炭素(CO2)応答性に異常をもつ変異体を探し出す計画であったが、これらの植物は枯れやすい上に気孔応答性も野生株に比べて低いため、目的とする変異体候補の選抜が厳しい状況であった。そこで別のアプローチとして、野生株に変異原処理を施したM2植物の中からCO2応答性に異常がある変異体を選抜し、さらに二次選抜としてABA定量およびABA応答性確認を行うことで目的とする遺伝子に変異をもつ植物体を絞り込んだ。この手法に切り替えたことで予定より変異体の選抜に時間がかかったものの、平成24年度に68系統、平成25年度(繰越期間含む)に87系統の変異体を一次選抜により単離することに成功した。さらに平成25年度ではこの155系統から二次選抜を行い、9系統にまで変異体候補を絞り込んだ。またこれらの変異体に関しては気孔形態・気孔応答性を中心に表現型解析を行い、特に興味深い形質を示した変異体から順次、遺伝学的マッピング・次世代シーケンスによる原因遺伝子の同定作業を行った。この結果、1系統については平成25年度終了時までに原因遺伝子候補の絞り込みに成功した。 また本研究の一環として、シロイヌナズナエコタイプの気孔応答性解析も行っている。平成25年度では、巨大気孔をもつエコタイプMe-0の気孔巨大化の原因が倍数性の上昇にあること、Me-0では気孔開口能および気孔コンダクタンス(gs)が通常の4倍体よりも高いことを突き止めた。さらに、気孔の密度・深度・開口部面積から算出される推定上のgsにおいても同様の結果が見られたことから、Me-0では確かに通常の4倍体よりも高いガス交換能をもつことが計算上でも証明された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度途中から変異体スクリーニング手法の変更を行ったため、当初の実験計画よりもスクリーニングに要する時間が増加したが、この手法の変更により、目的とする変異体候補を予定よりも多く単離することに成功した。さらにこれらの変異体について表現型解析を行い、特に興味深い形質を示したものから原因遺伝子の同定作業を行った結果、1系統については既に原因遺伝子候補の絞り込みが完了した。残念ながら挙がってきた原因遺伝子候補は既知であったが、そのほかの系統についても遺伝学的マッピングを行う準備は整っており、平成26年度中に多数の変異体の原因遺伝子が同定されることが期待できる。変異体候補の表現型解析の結果、これまで報告例のないような気孔応答性を示した系統も見つかっている。このことからも、新規のCO2シグナル伝達経路関連遺伝子を発見する可能性は高いと思われる。 またエコタイプを用いたCO2応答性解析実験も問題なく進んでおり、平成25年度では、気孔のサイズとガス交換能の観点から、気孔がより効率よくCO2を取り込むためのメカニズムについて考察を行い、植物が高いガス交換能を示すには、気孔サイズの拡大だけではなく、巨大気孔を十全に開かせるためのなんらかの仕組みが必要であることを、実験結果およびモデル式を用いた計算結果によって示した。これらのことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度および25年度該当分までの実験(繰越期間含む)によって、十分な数の変異体のスクリーニングに成功した。よって変異体の選抜実験はここまでとし、平成26年度では選抜した変異体の遺伝子同定作業に集中する。既に選抜した変異体の多くは、遺伝学的マッピング用にLerとの交雑種(F1植物)を自殖させ、F2種子を採取済みである。そのため、ただちに遺伝学的マッピングを行うことが可能である。ただし選抜した変異体候補は多数あるため、全ての系統について同時にマッピングを行うことは困難だと思われる。そこで特に興味深い気孔応答性を示す系統、またはマッピングが容易と思われる系統から順に原因遺伝子の同定を進めていく。 遺伝子同定作業の結果、未知のタンパク質をコードする遺伝子や、これまで気孔開閉応答との関係が報告されていなかった遺伝子が原因遺伝子候補として挙がってきた場合、相補性検定によって原因遺伝子を確定させる。原因遺伝子の確定後は、遺伝子の発現組織の調査、細胞内局在解析、既知のCO2シグナル伝達経路関連遺伝子との関係の調査、孔辺細胞内のイオンバランスの調査など、遺伝学的または生理学的な方面から解析を行い、本研究で同定した遺伝子がどのような機能をもち、またCO2シグナル伝達経路のどの位置で働いているのかを明らかにする。またCO2応答性の低いエコタイプではこの遺伝子の発現レベルがどうなっているかを調査し、実際の自然界におけるこの遺伝子の重要度を考察する。
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Research Products
(3 results)