2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J03751
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金澤 輝代士 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 非平衡統計力学 / 揺らぎのエネルギー論 / 微小系熱力学 / 非ガウスノイズ |
Research Abstract |
揺らぎのエネルギー論は,生物分子モーター・コロイド粒子といった微小系が持つ構造を熱力学の観点から理解する枠組みである.この枠組み内では,確率微分方程式でモデル化された系について熱力学量(熱・仕事)を定義し,系の操作限界を論ずる.その結果,微小系の第2法則や熱機関の効率などが解明された.しかし,従来の枠組みでは,加法的ガウスノイズに駆動されるLangevin系のみを議論の対象としていた.熱的系の多くはガウスノイズを用いて記述可能だが,非熱的な環境ではしばしば非ガウスノイズや乗法的ノイズが出現する.例えば電気伝導系・生物分子系がそうであるが,こういった系を従来の枠組みでは扱うことができなかった. 本研究の目的は次のことである:【微小系に対して理論構造を論ずる揺らぎのエネルギー論を,従来の枠組みでは扱えない非ガウス過程に拡張し,その熱力学構造を論じる.】 本研究の実施状況は次のようになっている.まず,揺らぎのエネルギー論の枠組みを非ガウスノイズに駆動されるLangevin方程式について拡張するために,新しい確率解析を導入して熱力学量(熱・仕事)を定義した.結果,熱力学第1法則と整合的な結果が得られることがわかった. 次に,非ガウスノイズを伴う非熱的系でのエネルギー輸送を議論した.具体的には,非ガウスノイズで特徴づけられる2つの非熱的環境を用意し,そのあいだに熱導線を繋ぐ.そして導線を通じる熱の平均値と揺らぎを調べた.結果として次の結論を得た:【(i)フーリエ則と揺らぎの定理は非ガウスノイズがある系では修正を受ける.(ii)その修正は熱導線を記述するポテンシャルの非調和性に強い影響を受ける.(iii)熱力学の第0法則は非熱的な環境では存在しない.即ち,2つの非熱的環境間の熱流の向きは,両者を繋ぐ導線によって変化する.但し,導線を一種類に固定すれば熱力学第0法則が近似的に回復し,導線に依存した有効温度が導入できる.】
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
揺らぎのエネルギー論の枠組みを非ガウス過程に拡張するための形式論が完成し,Phys.RevLett.に掲載された.また,その応用として非ガウスノイズが現れる非熱的な系でのエネルギー輸送を議論し,Fourier則・揺らぎの定理が如何に修正を受けるか議論し,理論的にもきれいな結果を得た.この結果は現在投稿中である.これらの結果を得ることが出来たことを考えると,計画は順調に進展していると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として主に2つ課題に取り組んでいる.その一つはショットノイズを伴う微小電気回路系での操作論である.微小なLRC回路を用意し,外部からショットノイズをLRC回路に印加する.次にコンデンサーの内部変数を制御し,サイクルを組む.この時にどの程度ショットノイズからエネルギーを取り出すことができるかを議論する.次に,乗法的ノイズと非線形摩擦を伴うLangevin系の操作論である.これまでに我々は次を示した:【(i)非線形摩擦系に拡張して熱力学量を定義すると,Grahamが導入した一般化揺動散逸関係のもとで、詳細揺らぎの定理が成立する.(ii)電気伝導系の非線形ゆらぎのMDシミュレーションの結果を非線形Langevin方程式を用いて再現する.】現在,非線形応答を伴うBrown運動のMDシミュレーションを行い,その数値データを解析中である.
|