2012 Fiscal Year Annual Research Report
スーダンにおける聖者信仰・スーフィズム・タリーカ-その現代的意義と人々への浸透
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12J03817
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
丸山 大介 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | スーフィズム / タリーカ / イスラーム / スーダン / 神秘主義 / 倫理 / 共同性 / サラフィー主義 |
Research Abstract |
本年度は以下の3点についての研究を行った。 1)スーフィズムとタリーカをめぐる分析枠組みの検討 昨年度までに行った約2年間のフィールドワークで得られたデータに基づき、スーダンのスーフィズムとタリーカを分析するための概念枠組みとして「超越性・規範性・共同性」を考案した。スーフィズムの特徴はしばしば超越性(神秘主義)と規範性(倫理)の二点に代表されるが、本研究ではタリーカを考察対象に含む場合にはタリーカでの諸実践や人間関係を通じて培われる共同性をスーフィズム研究の射程に含むことが重要である点を明らかにした。 2)タリーカによるサラフィー主義者批判にかんする研究 2012年の預言者生誕祭で発生したスーフィーとサラフィー主義者との衝突を事例に、スーフィーがいかにしてスーフィズムの思想やタリーカの実践の正当性を主張しているのか、また、彼らがサラフィー主義者に対してどのような批判を行っているのかを考察した。スーフィーは自らを平和と寛容を重んじる徒と位置付ける一方、サラフィー主義者を厳格主義で迷妄ゆえに、スーダンとイスラームから排斥すべきという排他的な主張を取る。スーフィーが他者との衝突を通じ、寛容性と排他性という相反する二極の間を揺れ動く過程とその理由を本研究では明らかにした。 3)ルカイニー教団におけるスーフィズムとサラフの関係にかんする研究 タリーカ・スーフィーヤ・サラフィーヤと称するルカイニー教団の教義を事例に、同教団におけるスーフィズムとサラフの思想的連関を検討した。スーフィズムをサラフの方法に基づいた教導と定義する同教団はスーフィズムとサラフをイスラーム教育の根拠として密接に関連づけつつ、自らをスー フィーとサラフィー主義者の中道と位置付ける。ルカイニー教団におけるタサウウフとサラフの関係は相反する別個の概念として二元論的に捉えられるのではなく、教育の根拠として相補的かつ不可分な関係にあったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、本年度は前年度までに行ったフィールドワークで得られたデータを整理、分析し、スーダンにおけるスーフィズムとタリーカの現代的意義を明確にするとともに、スーダンのスーフィズムとタリーカを理解する分析枠組みの構築を行った。また、その成果に基づき、京都大学に博士論文を提出した。当初予定していたアメリカでの学会発表を次年度に延期した(2013年5月。発表内定済み)ものの、本年度は一本の論文投稿(採録決定済み、2013年掲載予定)と四件の研究発表(一件は英語)を行っており、現在までの研究、および、成果発表は概して順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、スーダンの隣接国エジプトとの比較を視野に入れ、博士論文で行った議論の修正やスーフィズム・タリーカをめぐる分析枠組みを拡張するための研究を進める。スーダンは歴史的にエジプトとの関係が深く、スーダンにはエジプト起源のタリーカが数多く存在している。そのため、エジプトにおけるスーフィズムのあり方やエジプトでのタリーカの活動、スーダンとエジプトのタリーカ・ネットワークを考察対象に含めた上で、博士論文で問うた分析枠組みの精緻化を図る。アラブの春に伴う政変以降、エジプトの治安は悪化傾向にあり、長期間にわたる現地調査が困難になる可能性も予想される。その場合は、現地で収集するアラビア語文献(刊本や新聞記事、政府刊行物など)の分析に重きを置く。
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Research Products
(4 results)