2012 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症児の表情認知と情動処理の過程における特殊な視空間注意の解明
Project/Area Number |
12J03878
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
磯村 朋子 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 自閉症スペクトラム / 認知特性 / 表情認知 / 情動 |
Research Abstract |
本年度は、自閉症児における怒り顔の迅速な処理(以下、「怒り顔優位性効果」と呼ぶ)と、その背景にある認知的メカニズムを明らかにするため、自閉症児および定型発達児を対象に行動実験を行った。実験の実施に先立ち、刺激の作成、実験デザインおよびプログラムの作成、予備実験を行った。自閉症児は、京都大学こころの未来研究センターにて学習支援プロジェクトに参加している児童に研究協力してもらい、定型発達群は、所属機関の所在する愛知県犬山市で新たにリクルートした。犬山では実験室のセットアップとともに、参加者プールの作成と拡大に努めた。群間比較のために各参加者の知能指数や自閉症指数を測定し、そのうえで、両群の児童に実験を実施し、データを収集した。 その結果、定型発達児においては先天的な反応であるとされる怒り顔優位性効果が、自閉症児では発達の過程で獲得される可能性が明らかになった。また、その獲得は、自閉症児のソーシャルスキルの獲得と相関していることがわかった。さらに、より詳細に見てみると、自閉症児と定型発達児では怒り顔優位性効果の背景にある認知的メカニズムが異なる可能性が示唆された。定型発達児では、怒り顔を全体的に処理しているのに対して、自閉症児では、顔の中の部分特徴に注目しているようである。これらのことから、自閉症者では、先天的な顔知覚の苦手さを補うために、成長の過程で補完的なストラテジーを獲得し、それによって後天的に怒り顔優位性効果を獲得している可能性が示唆された。本研究結果は、本年度国内外の学会で発表された。また現在論文作成中であり、次年度中の国際誌投稿を目指している。 本研究は、科学的意義のみならず、自閉症者においてある種のストラテジーをもって表情認知の力が上がると、彼らのソーシャルスキルの向上にもつながる可能性を示唆した点で、支援の面においても非常に重要な知見を提供しうるものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、自閉症者の表情認知と情動処理に関する認知特性を明らかにするための準備や実験をほぼ予定通りに行った。実験室のセットアップ、実験参加者のリクルート、自閉症児および定型発達児を対象にした行動実験の実施、自閉症児における社会性スキルの評価を遂行した。また、得られた成果を国内外の学会で発表し、知見を発信すると同時に多くのアドバイスを得るとことができた。予定していた本年度中の国際論文投稿はまだ達成できていないが、これについてももう間もなく投稿できる見込みはあるので、本年度はおおむね順調に目的を達成できていると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降も、申請時の計画に沿って研究を進める予定である。平成24年度は表情刺激に線画を用いてきたが、今後はより生態的妥当性を上げるために写真画刺激や動画を用いた実験を行いたい。また、顔以外の情動刺激に対する情動反応の測定や、個人ごとの注意の向き方の指標を測定する予定である。また、定型発達児の研究参加者のリクルートを引き続き行い、参加者プールの拡大にも力を入れる予定である。さらに、研究成果をまとめた論文の国際誌への投稿を目指す。
|
Research Products
(6 results)