2012 Fiscal Year Annual Research Report
C型肝炎ウイルスの感染性を制御する細胞内分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
12J03908
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿部 雄一 京都大学, ウイルス研究所, 特別研究員(DC2)
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Keywords | C型肝炎ウイルス / 感染性 / プロスタグランジン / 抗ウイルス薬剤 / 肝実質細胞 / 脂質代謝 / 核内受容体 / ウイルス成熟 |
Research Abstract |
C型肝炎ウイルス(以下HCV)粒子形成においては、感i染性および非感染性粒子が形成されることが知られている。しかしながら、HCV粒子が感染性を獲得する細胞内メカニズムの詳細に関しては現在まで明らかにされていなかった。これまでに申請者らは、トロンボキサンA2(以下TXA2)合成酵素のノックダウンにより、放出されるHCV量に変化が無いにも関わらず培養上清中のHCV粒子の感染性が著しく低下することを明らかにした。すなわち、TXA2シグナル経路がHCV粒子へ感染性を付加させるメカニズムを制御していることを初めて明らかにした。 平成24年度において、TXAS阻害条件下におけるHCVタンパク質の細胞内局在、HCV産生細胞内のHCV粒子感染性の比較を行った。HCVタンパク質Core,NS5Aの脂肪滴周辺への局在はTXAS阻害の影響を受けず、この結果はTXASはHCVタンパク質の脂肪滴へのリクルートには関連していなことを示している。また細胞内のHCV粒子も放出された粒子同様に感染性が低下していたことから、TXAS阻害による感染性の低下は感染性粒子の放出を阻害するものではなく、感染性粒子の形成それ自体を細胞内で阻害していることが明らかになった。 またTXASによって合成される脂質メディエーターTXA2は、細胞膜上にある受容体TPを介してそのシグナルを近傍の細胞に伝達することが既に報告されていた。この先行研究から、我々はTPアゴニスト、アンタゴニストの感染性HCV粒子形成における影響を検討した。しかしながら、TPアゴニスト、アンタゴニスト処理によるHCV粒子の感染性低下は認められなかった。加えて、TXAS阻害剤の効果を検討した際に使用した培養細胞、およびキメラマウスの肝臓組織中のTPmRNA発現を検討した所、その発現が認められなかった。この結果は、肝臓中においてT)笛2のシグナル伝達が未知の作用機序を介して行われていることを示唆されている。従ってTXASのHCV感染性粒子形成における研究を進めた結果、肝臓中におけるTXA2の未知の作用機序という新たな研究分野を切り開く結果を得ることが出来た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究の目的である、TXASによる感染性HCV粒子形成機構については予定通りに解析を行い、TXAS活性がHCV粒子成熟を制御する可能性が示唆された。加えて、TXASの作用機序をその受容体であるTPのアゴニスト、アンタゴニストを用いて検討した結果、HCV感染性粒子形成は、TPを介したシグナル伝達によって制御されていないことが明らかになった。使用した培養細胞、およびキメラマウス肝臓組織中のTPmRNA発現を検討した所、共にTPmRNAの発現は認められなかった。まとめると、'本年度においてはHCV感染性粒子形成の一端を明らかにしただけでなく、未だに未解明である肝臓内におけるTXAの機能について興味深い示唆を与える結果も得ることができた。これらの結果から、本年度は当初の計画以上の進展が認められたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は頭書の予定通り、TXAS阻害剤処理、未処理サンプル間において遺伝子発現プロファイルの比較をマイクロアレイを用いて行う予定である。この結果から、HCV感染性を制御するTXA下流因子の同定を行い、更なる抗HCV薬剤標的の探索を行う。さらに発現の変動した遺伝子群のシグナル伝達解析を行い、TXA2が幹細胞中においてどのようなシグナル伝達、特にTPを介さないような未知のシグナル伝達を行うのかに関する検討を行うまた、感染性の低下したHCV粒子の性状解析も予定通り始める予定である。これまでの結果から、感染性の低下したHCV粒子ではその密度が変動することが報告されていたが、その詳細については不明な点が多く残されている。 そのためTXAS阻害時に放出されたHCV粒子のプロテオミクス、リピドミクス解析を行い、どのような変化が起きているのかより詳細な解析を行う。
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Research Products
(3 results)