2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J04117
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平松 亮 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | スピントロニクス |
Research Abstract |
本研究は磁壁の工学的デバイスへの応用と、伝導電子のスピンと磁壁との相互作用という磁性と電子輸送現象における基礎物理学の理解を深めることを目的にしている。本年度は、申請書に記載した電流誘起磁壁回転運動によるマイクロ波発振の研究を進めた。電流誘起磁壁回転運動とは、1次元細線の中にピン止めされた磁壁に直流電流を印加することで磁壁内の磁化の回転を誘起される現象である。 採用当初計画したGMR、TMR構造では、GMR構造ではCo/Ni層への分流比が小さく十分な電流密度が印加できなかったこと、およびTMR構造では磁壁抵抗測定が困難であったため、今まで用いてきたCo/Ni多層膜の上部にTa/Pt、下部にPt/Taの対称構造を持つ素子構造を用いて実験を進めた。 初めに、これまで研究代表者が報告したノッチ構造を有する細線中への磁壁のピニングを行い、直流電流印加により誘起されるマイクロ波発振を周波数測定で調べた。電流密度、外部磁場等の条件を検討したが、いずれの条件においても磁化回転に由来するピークの検出が困難であることが分かった。しかしながら、ノッチのピン止め構造を検討した結果、Co/Ni細線中の磁壁とNiFe合金間の双極子相互作用による磁壁のピン止めを、電気測定および磁気力顕微鏡を用いた直接観測から明らかにした。この成果は、国際学会で発表するとともに、学会誌Journal of Korean Physical Societyに報告した。双極子相互作用を用いた磁壁のピン止めの例は限られており、この成果は磁壁ダイナミクスの理解を推し進めるものであるとともに、磁壁回転デバイスへの応用の足がかりとなりうる。 研究の次の段階として、研究代表者は非対称構造における磁壁駆動に注目した。このような系では、スピンホール効果により下部あるいは上部層から強磁性層にスピンが注入され、磁壁は注入されたスピンによりトルクを受けるためより直接的に伝導電子と磁壁の相互作用について知見を得ることができる。材料としてはCo/Ni多層膜の上部に非磁性体のMgO、下部にスピン軌道相互作用の強いPtを有する多層膜を用い、ジャロシンスキー守谷相互作用やスピンホール効果を研究対象とする。研究代表者はすでに測定系、素子作製を完成させた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、伝導電子のスピンと磁壁との相互作用を用いた磁壁の工学的デバイスへの応用である。 当初予定していたGMR、TMR構造での研究は達成できなかったが、NiFe合金を用いた双極子相互作用に着目し、Co/Ni細線中の磁壁のピン止めの新しい手法の開発に成功し、国際学会や学会誌Joumal of Korean Physical Societyに報告することができた。一連の過程で測定系の立ち上げを完了し、非対称構造Co/Ni多層膜を用いた次の段階への下地を築くことができた。したがって、本年度は当初の計画以上に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の方針は、非対称Co/Ni多層膜構造を用いて伝導電子と磁壁との相互作用を明らかにすることである。非対称構造では磁壁にスピンホール効果が強く影響するとともに、非対称性からくるジャロシンスキー守谷相互作用によって磁壁構造が一意に決まることが報告されている。これらの強さを定量的に見積もるために、非対称Co/Ni細線内への複数の磁壁の導入し、磁壁間で形成される準安定状態の観測を目指す。その後、磁場あるいは電流印加時の準安定状態の磁壁の挙動(磁壁の消失あるいは移動)からこれらの効果が及ぼす影響を詳細に明らかにする。
|
Research Products
(4 results)