2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J04809
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小草 泰 慶應義塾大学, 文学部, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 知覚 / 痛み / 志向性 / 色の傾向性説 / 現象学 |
Research Abstract |
本研究の最終目的は、現代の哲学的知見と科学的世界観に照らして真に説得的な知覚理論を明らかにすることである。この目的のために、本年度は、前年度までの研究成果を発展させつつ、知覚的経験はいかにして外的世界に関わり、主体が世界に関する直接的知識をもつことを可能にするのかという観点から、説得的な知覚理論を探求した。 より具体的には、特に年度の前半においては、前年度において集中的に取り組んだ、痛みのような身体感覚経験の現象的側面と志向的側面の関わりに関する研究をさらに発展させ、これらの経験において、心的/経験依存的な感覚的質的要素がその志向的側面に本質的に寄与し、そして、主体が自身の身体という物理的事物のありように関わる直接的な知識をもつことを可能にする役割を果たしていることを明らかにした。この成果は、科学基礎論学会講演会において、口頭発表「痛みの経験は志向的か」として公表した。 この成果に基づき、年度の後半では、「経験依存的な感覚的要素が経験の志向的および認知的側面に本質的に寄与する」というアイデアがさらに、身体感覚を超えてどの程度知覚的経験一般に拡張可能であるかを特に色視覚に則して検討した。具体的には、「赤色とは、「赤色の感覚」を引き起こす傾向性である」と主張する色の傾向性説の可能性を検討し、上のアイデアの拡張可能性を探った。その成果は、1. 傾向性説はしばしば視覚経験の現象学に反するといった理由で退けられるが、しかし、現象学や内観が色や色を見るという経験の形而上学的本性について何をどの程度明らかにするものであるかは決して明らかではなく、この種の反論は決定的ではないこと、そして、2. しばしば問題視される「赤の感覚」と呼ばれる存在者は、経験される世界から切り離された何かとしてではなく、いわば世界への経路となるものとして理解されうる見込みがあることである。これらの成果は近く、論文にまとめる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、まず、身体感覚という事例に関して、(志向説やその他の現在有力視されている説と対照的に、)経験依存的な感覚的質を認める理論が有望であることを示すことに成功している。また、その成果の延長として行った色の傾向性説の検討を通じ、傾向性説に対する新たな擁護と発展の可能性について一定の成果を得ており、それらは公表の準備段階にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは、傾向性説に関する現在までの研究を論文の形にまとめ、1. 現象学や内観に基づく傾向性説への反論に対して、内観や現象学が理論的考察において持つ身分を問い直すことで応答するとともに、2. 「視覚的感覚」についての新たな理解を提示する。 さらにその延長として、視覚的およびその他の「感覚」の自然世界における存在論的身分についてのいかなる態度をとるべきかを検討する。そして、その成果をこれまでの研究結果と総合することで、現象学、認識論、存在論という三つの軸に則して、最終的に説得的な知覚理論とはいかなるものであるかを明らかにする。
|
Research Products
(1 results)