2013 Fiscal Year Annual Research Report

聴覚と平衡感覚の機能分化と可塑性に関する分子・細胞・回路レベルの統合的解析

Research Project

Project/Area Number	12J04818
Research Institution	Nagoya University
Principal Investigator	井上摩耶名古屋大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
Keywords	内耳 / 聴覚 / 有毛細胞 / 耳石 / 第VIII脳神経 / 電気生理学 / 発火特性 / ゼブラフイッシュ
Research Abstract	脊椎動物において、聴覚と平衡感覚はどちらも有毛細胞と呼ばれる受容細胞で電気信号に変換され、その情報は第VIII脳神経(内耳神経)を介して中枢(脳)へと伝達される。私は、共通の構造を持ちながら聴覚と平衡感覚が2つの全く異なる感覚として認識される点に興味を持ち、機能的に分化した神経回路が形成されるメカニズムの解明を目指している。研究には、脊椎動物のモデル生物であるゼブラフィッシュを用いている。ゼブラフィッシュは脊椎動物の基本的な構造を備えたモデル生物で、仔魚の体が透明で耳や脳の構造を生きたまま観察・実験できるという特長がある。これまでに私は、ゼブラフィッシュ仔魚の球形嚢(S)と卵形嚢(U)が、耳石と有毛細胞という共通の構造をもちながら、聴覚刺激と平衡感覚刺激を分離して受容することを明らかにし、その機能分化に耳石の大きさが重要な役割を果たすことを示した(Inoue et al., Sci. Rep., 2013)。さらに、感覚を正しく知覚するには、感覚器における刺激の受容に加え、その刺激が適切に情報処理される必要があることから、耳石器官で受容された情報を脳に伝える第VIII脳神経の活動をin vivoで記録した。その結果、聴覚経路(S)の第VIII脳神経は刺激の開始時に一度だけ活動し、平衡感覚経路(U)の第VIII脳神経は刺激の強度によって活動頻度が変わるという、異なる性質をもつことが明らかになった。音と体の傾きという異なる刺激が、第VIII脳神経において特徴抽出された後、脳へと伝達されることが示唆された。実際に、第VIII脳神経が結合する後脳の神経細胞で記録を取ると、聴覚経路と平衡感覚経路を介した刺激は、それぞれ異なる特徴をもって入力することが分かった。in vivoにおいて、高等脊椎動物では難しい、有毛細胞から第VIII脳神経、中枢神経の活動の対応付けができた点は本研究の強みである。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned. Reason ゼブラフィッシュ仔魚を用いて、聴覚・平衡感覚に関わる神経回路のin vivoでの電気生理学的解析を達成し、有毛細胞から第VIII脳神経、中枢神経の各レベルでの解析が進んでいることから、研究目的の達成に向けて、期待通り順調に進展していると評価できる。研究成果の一部は既に国際誌において発表しており、中日新聞、科学新聞、Nagoya University Researchのハイライト論文紹介等でも広く取り上げられている。
Strategy for Future Research Activity	より詳細に聴覚・平衡感覚に関わる神経回路の電気生理学的な特性を調べるため、現在、第VIII脳神経のホールセル記録による細胞膜特性の解析や、loose patch記録による発火特性の解析をおこなっている。また、第VIII脳神経がどのような発達過程を経て、それぞれの特性を獲得するのかを明らかにするため、聴覚・平衡感覚応答を獲得し始める受精後2日以降の各発達段階において解析をおこなっている。最終的には、それぞれに見出された特性が、どのような遺伝子やタンパク質によって実現されているのかを分子生物学的に解析し、聴覚と平衡感覚という異なる2つの感覚が獲得されるメカニズムを、現象としてだけでなく、分子レベルの詳細まで明らかにする予定である。