2012 Fiscal Year Annual Research Report
磁性多層膜を含む磁気的不均一系におけるスピン緩和機構の理論研究
Project/Area Number |
12J05058
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
梅津 信之 東北大学, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | Gilbert緩和 / Landau-Lifshitz-Gilbert方程式 / スピン波 / スピン帯磁率 |
Research Abstract |
磁化の一斉回転系において磁気緩和起源はスピン軌道相互作用と磁性不純物による電子散乱であることが知られている.対して最近の先行研究により,非一斉回転系の緩和機構は上に挙げた2つの緩和起源に加えて非磁性不純物による電子散乱も含まれることが示されている.しかし,磁化運動の乱れ具合(スピン波の波数に対応)と磁気緩和の関係については依然として未解明であるため,私はこの点に焦点を当てて研究を行うことにした. 本研究ではデバイスに応用が期待される遍歴強磁性体を想定しているため,局在した磁化と遍歴電子からなるs-d型モデルを用いた.電子スピンが重要な役割を担うこのモデルでは,微視的立場からの理論的記述が必要不可欠である.そのため,最初の数か月間はグリーン関数法による問題の取り扱いについて書籍や先行論文を参考に勉強した. 計算手法を身に付けた後,s-d型モデルにおける磁化の横成分に関して運動方程式を導出しその緩和項について微視的計算を行った.線形応答理論によってスピン帯磁率を微視的に記述し,その虚部を評価することでGilbert緩和定数を得た.結果より磁気緩和を起こすには伝導電子のStoner励起を誘発する必要性があるとわかった.非磁性不純物が存在する系では散乱によって電子に有限の寿命が与えられるため,Stoner励起可能領域が磁化の全波数領域にわたって拡がることになる. この結果はJournal of the Physical Society of Japanに論文投稿した.さらにこの研究の発展として,3月に行われた物理学会では低次元系(上述の論文の結果は3次元系)に対する計算結果について報告を行った.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り,早期の段階でグリーン関数法による計算手法を習得することができ,問題なく研究課題に着手することができた.磁化の非一斉回転系における電子の不純物散乱と磁気緩和の関係を明確にすることができた.スピン軌道相互作用を考慮した計算まで実行できればなおよかった.
|
Strategy for Future Research Activity |
磁化の非一斉回転系におけるスピン軌道相互作用と磁気緩和の関係を明らかにすることが当面のテーマである.スピン軌道相互作用は非磁性不純物による電子散乱と違って,一斉回転系においても緩和起源となるので,これまでの定式を変更する必要がある.特に,電子の固有値がスピンに対してよい量子数になっていないことに注意しなければならない. また,これまでの研究により非一斉回転系では緩和項の他にスピン拡散項が導かれることもわかったため,この項の解析計算も行いたいと考える.磁化の運動にどの程度寄与するのか定量的な見積もりも行いたい.
|
Research Products
(2 results)