2013 Fiscal Year Annual Research Report
磁性多層膜を含む磁気的不均一系におけるスピン緩和機構の理論研究
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12J05058
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
梅津 信之 東北大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | スピントロニクス / スピン緩和 / スピン波 / ラシュバスピン軌道相互作用 |
Research Abstract |
前年度は"磁気的不均一系"としてスピン波が励起した系を対象に、不純物による電子散乱がスピン緩和にどのような影響を及ぼすのか研究を行い、波数空間における緩和係数の定性的な計算を行った。この結果を用いることで、本年度の前半では実空間における緩和係数を導出することに成功した。結果から、不純物による電子散乱には磁化同士の相互作用を妨げる働きがあることを示し、相互作用の大きさが磁化の相対距離に強く依存することを明らかにした。この成果を7月に行われた国際学会で発表した。 本年度の後半ではモデルをより現実の物質に近づけるため、不純物散乱のほかにスピン軌道相互作用を考慮した計算を行った。2次元の強磁性金属膜を想定し、局在磁化と遍歴電子からなるs-d型モデルに加えてRashbaスピン軌道相互作用を考慮した。線形応答理論によってスピン帯磁率を微視的に記述し、その虚部をGreen関数法で計算することにより波数空間における緩和係数を導出した。スピン軌道相互作用を考慮した結果、緩和係数は波数に対して5つのピークをもつ特徴的な振る舞いを示すことが明らかとなった。5つのうち2つはバンド間遷移により生じるピーク、残りの3つはバンド内遷移により生じるピークである。さらに、不純物散乱の効果も考慮すると、バンド遷移可能領域が波数空間全体に拡がり、その代わりにピークが鈍ってしまうことも確認できた。これは電子に有限の寿命が与えられたことでネスティング効果が和らげ、垂直遷移が増強されたためである。 Green関数法による計算では保存則の要請からバーテックス補正が必要である。本研究ではこの補正の重要性についても議論を行った。バーテックス補正はピーク付近で大きな値をとることを明らかにするとともに、垂直遷移の寄与を抑え、運動量による遷移の寄与を増強する傾向があることを示した。 以上の研究により、スピン波が励起した状態に対するスピン緩和の機構はバンド間・内遷移によって定性的に説明できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スピン波励起状態におけるスピン緩和機構についてスピン軌道相互作用と不純物散乱を両方考慮した系で理解することができた。論文を出版できるところまで進められればなおよかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は磁気的不均一系として、スピン波励起状態に加えて磁性多層膜を想定した計算を行う予定である。これまで用いてきた2次元強磁性膜の上に非磁性層を積層したモデルを導入し、緩和係数の波数ベクトル依存性を議論する。層間のホッピングは強結合近似で記述し、非磁姓層はスピン分極のない自由電子モデルによって記述する。強磁性と非磁性が混じった系に対して固有状態を解析的に解くことは難しいので、コンピュータシミュレーションによる計算を予定している。緩和係数の膜厚依存性について実験に指針を与えるような計算結果を導出したいと考えている。
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Research Products
(1 results)