2012 Fiscal Year Annual Research Report
第一原理計算とX線自由電子レーザーを用いた構造解析システムの構築
Project/Area Number |
12J05357
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大村 訓史 京都大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 密度汎関数法 / 分子動力学法 / 電子状態計算 / 多価イオン / 臭化フェノール / 試料崩壊 |
Research Abstract |
本研究では、X線自由電子レーザー(X-FEL)照射によって生'じる多価イオン化した分子のイオンダイナミクスの解明および、X-FELを用いた構造解析法を構築する目的で、第一原理分子動力学法に基づく計算機シミュレーションを行っている。本年度は、ターゲット物質として、ベンゼン環にOH基と臭素原子が付いた臭化フェノールを用い、分子がイオン化(正に帯電)した際の崩壊メカニズムを定量的に評価した。多価イオン化した臭化フェノールの計算はMartynaらのクラスター計算の方法を用いた。本研究によって得られた成果は以下の通りである。 計算により、多価イオン化した臭化フェノールの崩壊メカニズムの詳細が明らかになった。まず、分子の価数を上げていくと(電子を抜いていくと)、平均的にすべての原子が正に帯電していくが、その中でも臭素原子に多くのホールが生じることが分かった。+6価ですべての原子が正に帯電し、その段階で、試料崩壊が始まる。試料崩壊は第一段階として水素原子の解離、次にベンゼン環の開環・フラグメント化、それから単原子への解離と多段階に渡っておこることが分かった。その崩壊の仕方には価数依存性があり、+6価、+7価に帯電した分子では初めに一部の水素が解離し、その後開環と同時に分子がスプリットする。帯電価数が+8価になると、すべての水素がほぼ同時に解離し、残された原子は臭素と酸素を終端とする鎖構造になる。遷移状態理論を用いて水素原子解離後に生じた鎖構造の寿命を計算すると、その鎖は数十nsで崩壊することが分かった。さらにpopulation解析を用いて電荷や結合状態の時間変化を詳しく解析することよって、多価イオン化した臭化フェノールの崩壊過程と電子状態のダイナミクス関連性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は多価イオン化した臭化フェノールの崩壊メカニズムを明らかにした。現在この結果を論文にまとめている段階であり、研究は順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記で挙げた結果を踏まえて、X-FELで現れるような高価数(+20価以上)の計算を行い、そのダイナミクスを調べる予定である。さらに、分子の形状が違う臭化ナフトールや臭化ビフェニルの計算を行い、試料崩壊の分子形状依存性を調べ、それらの結果を踏まえて構造解析システムを構築していく予定である。
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Research Products
(15 results)