2012 Fiscal Year Annual Research Report
がん特異的スマートナノキャリア:細胞内シグナル異常に基づく高安全性遺伝子治療法
Project/Area Number |
12J05483
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
金 燦宇 九州大学, 工学研究院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 遺伝子デリバリー / プロテインキナーゼ / 遺伝子導入 / 疎水性相互作用 / 癌 |
Research Abstract |
効率的な遺伝子治療を達成するために、より優れた遺伝子デリバリー技術の開発が不可欠である。本研究では、直鎖型のポリエチレンイミン(LPEI)に対して疎水基を修飾したカチオン性ペプチドをグラフトした遺伝子キャリア(LPEI-peptide)を用いた、癌特異的な遺伝子デリバリーを行うことを目的としている。LPEIは、プロトンスポンジ効果によりエンドソームからの脱出能が向上することが期待される。カチオン性ペプチドは、癌細胞において特異的に活性化していることが知られているプロテインキナーゼCα(PKCα)の基質ペプチドである。LPEI-peptideは、カチオン性ペプチド部位を持つため、アニオン性であるDNAと静電相互作用によりポリイオンコンプレックスを形成する。このとき、LPEI-peptide中の疎水基に由来する疎水的相互作用によって、複合体が強固になり、安定化すると考えられる。この複合体がリン酸化されると、カチオン性ペプチド部位にアニオン性であるリン酸基が導入されるため、複合体が不安定化し、崩壊する。これにより、癌細胞特異的な遺伝子の放出が期待される。合成したpeptideやLPEI-peptide、LPEI-peptide/DNA複合体については、MALDI-TOF-MSやHPLC、NMR、ゼータ電位測定などの測定を行い、基礎的な物性を評価した。LPEI-peptide/DNA複合体は、疎水基を修飾することで細胞内への取り込み効率は向上したが、疎水基が修飾されたペプチドのPKCαによるリン酸化効率が低下することはなかった。LPEIに由来する高いエンドソーム脱出能と、疎水基の修飾に由来する高い安定性によって、複合体のPKCαに応答した遺伝子発現はこれまでの遺伝子キャリアと比較して顕著に改善された。本年度は、癌細胞で異常に活性化しているPKCαに応答した遺伝子発現を、発現したタンパク質によって発される蛍光によって評価を行い、良好な結果が得られた。治療用の自殺遺伝子を含むDNAと、本研究で提案した疎水基を含むLPEI-peptideを用いることで、癌細胞特異的な遺伝子治療の達成が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主な目的は、本研究で台成したLPEI-peptide及び遺伝子キャリアとしてのLPEI-peptide/DNA複合体の物性評価と、PKCαに応答した癌細胞特異的な遺伝子発現の評価である。本年度は、物性評価を行い、また、新規遺伝子キャリアの送達概念の実証と、疎水基を導入したLPEI-peptideの癌細胞特異的遺伝子発現の検証を行った。その結果、疎水基を導入したLPEI-peptideが、疎水基を導入していないものに比べて効率的に癌細胞特異的な遺伝子発現を達成した。これは、本研究で目指した疎水基の導入による複合体の安定化を示唆するものである。以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
疎水基導入の効果を細胞レベルで検証することで、より正確な概念の実証を行う。具体的には、蛍光ラベルしたDNAを用いて複合体の細胞内動態を明らかにする。また、DNAを異なる二つの蛍光基でラベルし、細胞内での複合体の崩壊挙動の観察を試みる。これにより、我々の遺伝子送達システムのメカニズムが達成されているかを検証する。
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Research Products
(5 results)