2012 Fiscal Year Annual Research Report
インスリン分泌ホルモンによる甘味特異的な情報伝達メカニズムの解明
Project/Area Number |
12J05570
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高井 信吾 九州大学, 歯学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 味覚 / 末梢感覚 / 生理学 |
Research Abstract |
本年度は、インスリン分泌ホルモンの一つであるGIPおよびその転写調節因子が、マウス味蕾で発現していることを発見し、第54回歯科基礎医学会学術大会・総会、日本味と匂い学会第46回大会で発表した。今回の研究でGIPは甘味受容体を発現している味細胞に多く局在しているということを明らかになった。この事実は、味細胞において、甘味受容とGIP分泌が深く関連している可能性が高いことを示唆する。 また、別のインスリン分泌ホルモンであるGLP-1のレセプターをKOした遺伝子組み換えマウスを用いた行動実験の結果、このKOマウスは、野生型マウスと比べて、甘味特異的に嗜好性が減少していることがわかった。この結果は、GLP-1が、末梢から中枢へと味覚情報を伝えるシステムの中で、甘味特異的な情報伝達の役割を担っているという仮説と合致する。 さらに、野生型マウス、GLP-1レセプターKOマウスの舌前方部味蕾を支配する鼓索神経の甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の各種味物質に対する応答を記録、比較した。その結果、甘味に対する応答がKOマウスでは減弱していることが明らかとなった。 そして、当研究室のみが有する、単一味細胞からの味応答記録が可能なsingle cell patch clamp法を用い、甘味刺激に応答した甘味感受性細胞から分泌されたGLP--1を回収し、その濃度を測定することに成功した。一方で、苦味物質で刺激した時に興奮が見られる苦味感受性細胞からのGLP-1の分泌はほどんど確認出来なかった。この事実もまた、GLP-1が甘味特異的に味細胞から分泌され、情報伝達に関わっているという仮説を強く支持するものである。現在はこれに併せて、loose patch clamp法を応用した手法を用い、味蕾全体から放出されるホルモンの量や、刺激の種類また刺激強度との対応を解析する実験も併せて行っている。これらの実験は、味蕾からの味刺激によりホルモン分泌が行われるという全く新しい知見を示すブレイクスルーとなり得る実験であり、今後さらに回数を重ね、詳細な分析を行っていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、味細胞応答記録、および味細胞から分泌された微量ホルモンの回収/測定に成功するなど、主に技術的な面で大きな進歩が見られた。本テーマは非常に新規性が高く、チャレンジングなものであり、その解明は容易なものではないと感じているが、ようやく達成への糸口をつかんだと実感している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、単一味細胞から分泌されるホルモンの量と刺激強度との関係や、刺激物質の種類との関係等、より詳細かつ広範な解析を進めていく。また、鼓索神経応答解析においては、特定の味質にのみ応答する神経線維(主に甘味)の血中投与したGLP-1やGIPに対する反応を見ることで、これらのホルモンが味覚情報伝達においてどのような働きを持っているのか探索していく予定である。
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Research Products
(3 results)