2012 Fiscal Year Annual Research Report
絶滅危惧種カワシンジュガイの長期的な個体群維持機構の解明
Project/Area Number |
12J05823
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
照井 慧 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | カワシンジュガイ / 河川 |
Research Abstract |
本研究では絶滅危惧種カワシンジュガイの長期的な個体群維持機構を明らかにすることを目的としている。その中核となる要素は、メタ個体群動態の解明である。局所個体群間の移動分散過程は、メタ個体群動態の理解に欠かせない。2012年度はこの点に焦点を当てた研究を行った。 河川上流域に生息するカワシンジュガイは、その生活史初期において、グロキジウム幼生と呼ばれる幼生がヤマメの鰓に約一か月寄生することが知られている。カワシンジュガイの局所個体群間の分散は幼生期および宿主から脱落直後の稚貝の水流による分散に限られているため、その基礎的知見は本種のメタ個体群動態の理解のために必要不可欠である。2012年度の研究では、ヤマメによるグロキジウム幼生の分散パターンを把握するため、ヤマメの標識再捕獲調査(流呈方向の分散パターンの把握)および定置網調査(支流への分散パターンの把握)を行った。 標識再捕獲調査はグロキジウム幼生の寄生期間である7月~8月にかけて実施した。計345個体のヤマメに対して標識を行い、36個体が再捕獲された。その結果、グロキジウム幼生はヤマメに寄生している寄生期間中に上流方向へ偏った分散を行っていることが明らかとなった。カワシンジュガイは流れの速い上流域を主なハビタットとしており、特に増水時などには水流による下流方向への分散の影響を強く受けているものと考えられる。寄生期間中の上流方向への分散は、水流による下流方向の分散に対抗する手段のひとつとして機能していると考えられる。 定置網調査では、標識再捕獲調査と同時期に、本流から支流へ移動してくるヤマメ個体数の定量化を行った。その結果、ヤマメはより水温の低い支流へ頻繁に分散していることが明らかとなった。カワシンジュガイの幼生および稚貝は夏季の高水温に対して極めて脆弱であることが知られており、水温の低いハビタットへ移動することでより高い生存率が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に順調に成果が得られ、2012年中に取得したデータの一部に関しては、すでに英語論文として国際誌に投稿中である。また、異なる視点から収集したデータセットについても、すでに英語論文としてまとめ終わっている段階にあり、次年度はじめには国際誌に投稿できる状態にある。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度は当初の計画以上に順調に研究が進捗したため、今後は採用期間中にできる限りより多くのデータを英語論文としてまとめ上げることに集中する。また、昨年度取得しきれなかったデータに関しては補足的なサンプリング、実験などを行い、データの補完を行う。
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