2012 Fiscal Year Annual Research Report
道具使用に関わる認知的処理及びその神経基盤における補償作用の解明
Project/Area Number |
12J05850
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石橋 遼 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 意味認知 / 道具 / 脳機能イメージング / メタ分析 |
Research Abstract |
道具に関する脳機能イメージング研究のメタ分析の結果を、英語論文としてNeuroimage誌に投稿した。道具を刺激として用いた脳機能イメージング研究は数多くあるがその内容は様々であり、特にそれぞれの研究の目的によって用いられる認知的課題の種類が異なる。このことは検出された脳領域のどの部分が道具の一般的・概念的処理に重要なものか、そしてどの部分がそれぞれの課題に特異的なものかについての、研究全体を通した了解を難しくしていた。私の論文ではこの点を明らかにするために、まず道具に関係する課題を3種類に分類し、脳機能イメージング研究の論文をその種類ごとに集めて報告された活性化脳領域の座標を取出し、活性化尤度推定法(Activation Likelihood Estimation)と呼ばれる統計的な手法を用いて3課題で共通して活性化する領域、および各課題で特異的に活性化する領域を検出した。結果として道具の機械的な動きや道具を使う際の身体の動きの記憶を表象していると考えられる領域(頭頂葉・後側頭葉)が3課題で共通する活性化領域として検出された。また、道具の認識・呼称においては、物体の認識のための工事の視覚的情報処理を行っているとされる腹側の後頭-側頭領域が検出され、道具の使用においては見えた物体に対して作用可能な手の実際的な動きを処理しているとされる上頭頂葉、頭頂間溝領域が検出された。これらはそれぞれ古典的な視覚処理の二重経路仮説の腹側(what)経路と背側(how)経路に相当するものであった。この研究は初めて道具という対象に対する皮質活動全体にメタ分析の手法で一度に迫り、その全容にある程度の見通しを与えるものとなったといえる。また新たな実験研究を行うための作業として、まず日本人を対象とした道具操作判断課題を作成している。最初に日本人になじみのある道具のみを用いて道具の操作方法が似ているもののペアをできる限り列挙した。今回の研究ではより実際的な道具認識・使用場面と近づけるため、道具の写真を用いて課題を行うこととしている。そこでそのための視覚刺激として、用意した道具ペアのリストに含まれる204個の異なる道具の写真を収集し、その画像処理を行った。現在はその写真刺激群を用いて実際に課題ができるようにプログラムを作成している途中である。課題の難易度や一般的反応時間などを調整するために若干の予備的な調査が必要となると考えられるが、次年度(平成25年度)にはこの課題を用いて、道具の使用方法の神経基盤とその保障作用を明らかにするための研究計画を大きく前に進めることができるであろうと予測している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでデータの収集・分析を続けていた、道具の認識・命名・使用に関わる脳領域を全般的に検討したメタ分析研究の学術誌への投稿を達成することができた。この研究は数多く存在する脳機能イメージング研究の報告のうち、日常使用する道具の知識や理解に関わるものを集めて系統的に関係する脳領域の位置を検討したものであり、今後の研究計画の妥当性を保証するために必要なものであった。またこの論文投稿に加え、新たな実験研究に用いる画像刺激として204の画像を用意できた。これらは全て適切な課題プログラムに組み入れることで実験の遂行を容易にするものであり、次年度のデータ取得に向けて大きく状況を進めることができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はまず道具の写真を用いて道具の操作判断課題を作成し、健常群で予備調査データを取得することでそれを標準化する。具体的には道具写真をペアにして提示するようにプログラムを組み、それらの操作法が同じであるか否かを被験者に判断させる。この予備調査によって正答率が高く、反応時間が中程度(1-2秒程度)の範囲に収まるものを抽出して課題を完成させる。次に経頭蓋磁気刺激(TMS)を下頭頂小葉に適用して道具操作の判断が増大するかどうかを調べる。TMSの効果が確認されたら機能的磁気共鳴画像を用い、被験者にMRIスキャナに入ってもらって、TMS適用前と後で道具の操作判断課題中の脳活動を記録する。次年度はこのfMRI実験までを目標とし、その次の年度ではデータの解析とIPL機能の補償可能性のある領域の抽出をする。その後補償領域候補にTMSを加える事でその機能を確かめる行動実験を行い、結果を学術誌に公表する。
|