2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J05853
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
太田 奈緒香 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 近藤格子 / 走査トンネル顕微鏡 / 走査トンネル分光法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、(i)バルク由来の複雑なバンド構造を持たない単純な低次元近藤格子(磁気秩序系、無秩序系)を作成し、(ii)それらのフェルミ準位近傍の電子状態、および空間分布の観察を、走査トンネル顕微鏡法・分光法およびその他の補完的な方法を用いて達成し、磁気秩序系、無秩序系およびそれらの境界の量子状態を明らかにすることである。 研究実施計画制定時、我々は既に、金(111)表面に鉄フタロシアニン分子を蒸着して自発的に形成される超構造が、磁気秩序を持つ2次元近藤格子を形成していることを見出していた。研究実施計画では、磁気無秩序系の近藤格子の探索と、金(111)上の鉄フタロシアニン格子の精査を並行して行う予定であった。 磁気無秩序系の近藤格子の探索において、銀(100)に吸着した鉄フタロシアニン分子が近藤系ではないか、走査トンネル分光測定を行い検証したが、測定可能な最低温度(400mK)において、フェルミ準位近傍に近藤系に特徴的な構造は現れなかった。銀(100)上で格子をなした鉄フタロシアニンにおいても同様に、フェルミ準位近傍に特徴的な構造は現れなかった。金(111)上の鉄フタロシアニン格子の精査において、試料に基板面内方向の磁場を印加し、分子中心で走査トンネル分光測定を行ったところ、ある分子上では磁場を印加しないときと同様のダブルディップ形状が、別の分子ではそれとは異なるシングルディップ形状のスペクトル構造が観察された。また、シングルディップ・ダブルディップを示す分子は、それぞれ分子による超格子の2×2の周期で分布していた。今回観測されたスペクトルの変調は、磁場による量子相転移を反映している可能性がある。また、私の知る限りでは、このようなスペクトルの変調は、理論的に予測されておらず、観測された現象を説明できる新たな理論モデルを要請する。解釈の結果は、近藤格子系のバルク物質の磁場への応答に関して新たな知見をもたらす可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、新しい低次元近藤格子系の探索と、予め発見していた系の精査を並行して行う予定であった。予め発見していた系の精査で、期待以上の結果が出たが、新しい近藤格子系を見つけていないため、(1)と(3)の間をとって(2)とする。
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Strategy for Future Research Activity |
新しい低次元近藤格子系の探索については、引き続き行う。表面吸着分子系で近藤効果を示す系の報告が増えてきているため、0から分子と基板の組み合わせを試すのでなく、それらの試用を検討している。 金(111)上の鉄フタロシアニン格子については、精査を続ける予定である。
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Research Products
(3 results)