2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J06207
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
若村 太郎 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | スピントロニクス / スピン流 / 超伝導 / 磁性 / メゾスコピック / ナノスケール |
Research Abstract |
該当年度申請者は、スピン蓄積を用いた超伝導状態制御に向けて、超伝導体へのスピン注入と輸送特性に関する研究を行った。スピン軌道相互作用が大きい物質に対するスピン注入に有用なスピン吸収法を用いて、超伝導Nbに対してスピン注入を試みた。面内スピンバルブ構造の2つの強磁性体細線間にNb細線を挿入し、超伝導転移温度以上と以下でどのような振る舞いの違いがみられるかを測定した。通常スピンが物質に吸収される量は、吸収されるスピン流を生成するのに用いる強磁性体/非磁性体間に流すスピン注入電流の量に依存しないが、Nbが超伝導転移する転移温度よりも低い温度では、スピン吸収の量が明らかにスピン注入電流に依存することが確認され、スピン注入電流を小さくしていくにしたがってスピン吸収が抑制されている振る舞いが見られた。申請者はこの振る舞いの異常がNbの超伝導性に起因するものと考え、スピン吸収が起こるCu/Nb界面近傍の振る舞いについて詳しく調べた。その結果、Nb/Cu界面近傍では恥の超伝導性に起因する電荷不均衡効果が観測され、これが我々がスピン吸収測定で用いているスピン注入電流や面内印加磁場に対しても破壊されない、すなわちスピン吸収が超伝導状態を保ったまま起こっていることを示唆するデータを得ることができた。界面抵抗の温度依存性とスピン注入電流依存性を比較することにより、スピン流生成時、比較的抵抗の高い強磁性体部分で熱的に励起された電子がそのまま非磁性体部分を渡って超伝導Nbに侵入し、超伝導ギャップの上の準粒子状態に入り込むことを介して、スピン流が超伝導体に熱的に注入されているという結論を得た。このような熱的な電子励起を用いた超伝導体への純スピン流注入は世界で初めて観測され、また本研究で用いた超伝導体が従来の研究で多用されているA1ではなくNbである点が、将来同じ構造で超伝導スピンホール効果などの観測に向けた足がかりになるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究課題申請時における目的を達成するため、申請書類に記入した内容よりも基礎的な部分から研究をスタートさせる必要があったが、その研究に関してはおおむね順調に進展しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
現在取り組んでいる内容を一旦学術論文にまとめ、また現段階で得られている知見をもとにNbが超伝導状態になった場合のスピンホール効果について詳しくしらべる。特に、超伝導状態では電荷不均衡効果に起因する余分な電圧とスピンホール電圧を分けることが必要なので、まず面内印加磁場に対して対称成分と反対称成分に分離し、反対称成分においてもスピンホール電圧と余分な効果が加算されている可能性があるため、それらを詳しく調べることで超伝導状態におけるスピンホール電圧を測定する。また、それと並行して超伝導体/強磁性体/超伝導体面内ジョセフソン接合を作製し、非一様な磁化状態が存在する場合に現れる奇数波スピン三重項超伝導状態の面内構造での創成と、そこで発生するスピン流に関する研究を推進する。スピン三重項クーパー対によるスピン流の生成にも挑戦する。
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Research Products
(4 results)