2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J06207
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
若村 太郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | スピントロニクス / スピン流 / 超伝導 / 磁性 / メゾスコピック / ナノスケール |
Research Abstract |
該当年度申請者は、超伝導体へのスピン注入と輸送特性に関する研究を行った。スピン軌道相互作用が大きい物質に対するスピン注入に有用なスピン吸収法を用いて、超伝導Nbに対してスピン注入を試みた。面内スピンバルブ構造の2つの強磁性体細線間にNb細線を挿入し、超伝導転移温度以上と以下でどのような振る舞いの違いがみられるかを測定した。通常スピンが物質に吸収される量は、吸収されるスピン流を生成するのに用いる強磁性体/非磁性体間に流すスピン注入電流の量に依存しないが、Nbが超伝導転移する転移温度よりも低い温度では、スピン吸収の量が明らかにスピン注入電流に依存することが確認され、スピン注入電流を小さくしていくにしたがってスピン吸収が抑制されている振る舞いが見られた。申請者はこの振る舞いの異常がNbの超伝導性に起因するものと考え、スピン吸収が起こるCu/Nb界面近傍の振る舞いについて詳しく調べた。その結果、Nb/Cu界面近傍ではNbの超伝導性に起因する電荷不均衡効果が観測され、この電荷不均衡効果の温度依存性、スピン注入電流依存性を比較することにより、スピン注入電流によってNb/Cu界面近傍の温度が環境温度に比べて上昇していることを発見した。この温度上昇の効果を含め、本研究で用いているデバイスに見られるような清浄な超伝導体/常伝導体界面で存在する超伝導近接効果を取り入れた超伝導Nbの状態密度の計算を行った。この計算には、空間変化する状態密度の計算に有用なUsadel方程式を用いた。キーポイントは、このUsadel方程式には超伝導体のスピン緩和時間に関係する項があり、これをパラメータとして実験結果を再現するように状態密度を決定したところ、各スピン注入電流値に対してスピン緩和時間を得ることが出来、スピン注入電流を小さくしていくとスピン緩和時間が大きく増大することが判明した。先述したスピン注入電流とNb/Cu界面の有効温度との対応関係から、このことは温度が減少するとスピン緩和時間が増大することを示しており、これまで理論的に予言されていた超伝導体中での温度低下に伴うスピン緩和時間の増大を実験的に証明することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は実験装置のトラブル等により進捗が遅れ、本年度も実験装置のトラブルは発生したものの、これまで蓄積していた実験データの解析が順調に進展し、査読付き論文一報を発表することが出来た。また引き続き実験を継続しており、現在持ち合わせているデータで平成26年度論文を投稿できる見込みがあるためである。
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Strategy for Future Research Activity |
超伝導体中にスピンが注入された後で起こる新奇な現象について調べる。物質中にスピンが注入されると、スピン軌道相互作用が大きい物質の場合、スピンホール効果を起こすので、超伝導状態とスピンホール効果が共存したとき、どのような新奇な現象が発現するのかについて詳しく調べる。また、名古屋大学のグループと窒化ニオブ(NbN)を用いた実験で共同研究を行っているので、Nbで得られた知見が窒化ニオブ(NbN)の場合にどのように変わるのか、またどのような共通点があるのかについて調べる。このプロジェクトと同時に、スピン三重項超伝導状態とスピシトロニクスに関する研究も行う予定である。
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Research Products
(5 results)