2012 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭アメリカ合衆国の社会保障制度と医療思想の国際連関
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12J06622
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
牧田 義也 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | アメリカ史 / グローバルヒストリー / 医療政策 / 社会保障制度 |
Research Abstract |
本研究の目的は、20世紀初頭のアメリカ合衆国における社会保障制度の形成過程とその社会的含意を、19世紀後半以降の医療思想の国際的連関の中に位置づけて考察することである。この目的のために平成24年度は、国外ではアメリカ合衆国ニューヨーク・ボストン・ワシントンD.C.、フィリピン、シンガポール等各地の図書館・文書館、及び国内では赤十字豊田看護大学文書館等において、広範な史料収集を実施した。また、これらの収集史料と従来の研究蓄積を合わせて、アメリカ合衆国、デンマーク、フィリピンにて開催の学会・国際会議・シンポジウム等で計5回の研究報告を行った。研究報告では、アジア太平洋地域での経験を通じて蓄積された実践的な医療知識が、合衆国内の福祉事業に転用されていった過程を跡づけることで、20世紀初頭の身体的健常性の概念をめぐる医療思想の起源が、ヨーロッパの医学・衛生思想とともに、同時期の人種観念と密接に結びついた植民地医学(colonial medicine)の知見に存することを明らかにし、多くの有益な助言と示唆を得ることができた。さらに、平成24年度刊行の研究論文「権利としての救済:ニューヨーク市失業者救援運動と社会福祉システムの再編」(『アメリカ史研究』35号)では、1914年のニューヨーク市失業者救援運動を事例として、同市の社会福祉プログラムが、従来型の慈善的施与を中心とする貧民(pauper)の救済・道徳的矯正を目的とした公的扶助(public assistance)と、元来は有用な労働者であった者たちに対する保障としての社会保険(social insurance)とに分割・再編されていった過程を社会史の分析視角から考察し、20世紀初頭の合衆国における貧困者分類システムの構築を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象に関する考察の深化、収集史料の分析の進展、研究成果の発信、といった点では、研究計画はきわめて順調に進んでいる。ただし、平成24年度は大規模な史料収集を実施してきたが、研究目的の十全な達成のためには、いまだ収集すべき史料は膨大にある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度中に収集しきれなかった史料の獲得が今後の課題となる。たとえば当初計画していたスイス・ジュネーヴでの国際赤十字運動関連の史料収集や、国内の九州地方の各文書館所蔵の公衆衛生関連の史料群の収集は、平成24年度中には予算上の他の優先事項とスケジュールの関係で叶わなかった。今後可能なかぎり速やかに、研究目的の達成のために必要となる史料の収集・分析にあたりたい。
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