2012 Fiscal Year Annual Research Report
精密飼育実験による海洋酸性化がサンゴ礁石灰化生物の殻形成に与える影響の評価
Project/Area Number |
12J06864
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
氷上 愛 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 海洋酸性化 / サンゴ礁棲石灰化生物 / 石灰化量 / 光合成活性 / 紅藻サンゴモ / 酸素炭素同位体比 |
Research Abstract |
24年度は、サンゴ礁に生息する石灰化生物である紅藻サンゴモ2種(ミナミイシモ、サモアイシゴロモ)を対象とし、海洋酸性化や水温が紅藻サンゴモの成長量へ及ぼす影響を明らかにする実験を行った。(1)琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設(以下、瀬底実験施設)と(2)柏崎海洋実験試験場において、それぞれ2ヶ月間の飼育実験を行った。サンゴ礁生態系の中で主要な炭酸塩生産者である石灰藻類の種間や個体間の骨格成長、代謝などの生理応答の違いを知ることは、博士の研究目的であるサンゴ礁生態系全体の影響を知る上で重要な意義を持つ。飼育実験の詳細は以下に記す。 (1)瀬底実験施設では平成24年5月より約2ヶ月間行った。まず、沖縄県本町備瀬において対象試料の採取を行った。飼育実験は、精密pCO2制御装置を用い、現在(4OOppm)と今世紀末に到達すると予測されるpCO2濃度(700ppm)を設定し、石灰藻2種(ミナミイシモ、サモアイシゴロモ)を酸性化海水に暴露し飼育した。飼育前後の重量の測定によって石灰化量を計測し、酸素消費量から光合成量を見積もり、酸性化に伴う石灰化と光合成の応答について評価を行った。その結果、400ppmと700ppmの成長量の間に有意な差は見られなかったが、光合成活性は700ppmの方が高く、酸素消費量は400ppmの方が高いという結果が得られた。 (2)12月より約2ヶ月間、柏崎海洋生物実験施設において、石灰藻類の水温実験を行った。沖縄の冬の水温(17℃)と夏の水温(29℃)とその間の水温(21℃,25℃)の4段階に設定し、成長量の違いを観察した。骨格重量測定の結果、高温条件(夏)の方が成長率は高いことが明らかになった。本研究では環境を精密に制御した実験によって、石灰藻類の水温と成長量の関係を明らかにする他に、炭酸カルシウムの骨格が水温指標として利用可能かを検証する目的も含んでいる。骨格の化学分析は現在進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの精密飼育実験の経験を生かし、新しい生物(紅藻サンゴモ2種)に対してある程度の実験結果を出すことができた。また、酸性化実験だけでなく、水温実験にも着手し、十分な結果を得たことは大きな進展であった。また、年度内に炭酸カルシウムの安定同位体比分析の手法の獲得など、測定項目を増やすことができ、飼育実験を多角的に分析する準備が出来た。しかし、酸性化実験は条件を増やし、再度飼育実験を行う必要があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的であるサンゴ礁生態系スケールでの酸性化影響を考察していくために、25年度は、サンゴ礁棲石灰藻に対し、次の2つのアプローチを試みる。実験室における環境と化学分析の関係性と、実際に生息しているフィールドにおける環境と化学分析の関係性を比較したい。具体的には、(1)被飼育実験個体の化学分析と(2)実際の生息地の環境調査及び化学分析である。(1)は、飼育実験中に成長した炭酸カルシウムの安定同位体比から、飼育海水の条件(酸性度や温度)の違いを検出できるかを明らかにする。(2)は、沖縄周辺に生息する石灰藻の安定同位体比を測定し、石灰化と光合成が共存する石灰化メカニズムの解明を試みる。そして、石灰藻の環境指標としての可能性も議論する。石灰藻の種別の生息環境、安定同位体比、精密飼育実験による結果を蓄積し、データベース化したい。
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