2013 Fiscal Year Annual Research Report
『宗鏡録』の研究--唐から宋への仏教思想の展開--
Project/Area Number |
12J07297
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
柳 幹康 駒澤大学, 総合教育研究部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 延寿 / 『宗鏡録』 / 『方丈実録』 / 禅浄一致 |
Research Abstract |
本研究の目的は、五代の時代に編まれた『宗鏡録』の研究を通じて、唐から宋にかけて一変する中国仏教の思想展開を把握することにある。採用第2年度目にあたる平成25年度の研究は、主に(1)思想の分析、(2)伝記資料の調査・整理、(3)延寿に対する後代の評価、の三点で以下の成果を得た。 (1)延寿の『宗鏡録』を分析し、そこに説かれる仏説論と実践論について解明した。すなわち、従来は階層的に整理されていた仏説を、延寿が「宗(=仏教の核心)」を指す点で等価値と見なし、仏説全体を単層的に捉える新たな仏説観を呈示していること、また、その「宗」の看取にいたる階梯として延寿が「趣(実践項目)」を整理するとともに、歴代の禅僧の「無事(ありのまま)」を仏の境涯と見なす独自の実践論を構築したことが明らかとなった。 (2)後世の延寿像に多大な影響を及ぼした重要な文献でありながら、これまでの延寿研究で活用されていなかった延寿の伝記『方丈実録』(1160年刊本、中国国家図書館所蔵)の調査を行い、他の資料と比較対照することで、延寿の伝記資料の系統図を作成した。 (3)(2)で作成した系統図の成果をもとに、延寿の没後、その形象がいかに変遷したのかを解明した。これにより、今日において延寿を形容するのに屡々用いられる「禅浄一致」という見方が、禅と蓮宗が中国仏教の二大潮流となる後世の問題意識を反映したものであり、延寿の思想の全体を捉えたものではないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究において、当初計画していた『宗鏡録』の仏説論と実践論の解明を果たすことができた。これに加え、稀覯本『方丈実録』の分析により、後世における延寿像の変遷を文献学的に跡付けることにも成功した。以上の研究成果に鑑みて、当初の計画以上に研究が進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、(1)『宗鏡録』の思想体系の解明、(2)現代中国における延寿と『宗鏡録』の評価の調査、の2点を中心に進めていく予定である。(1)思想体系の解明では、『宗鏡録』に引かれる先行の文献の精査、ならびにその原義と延寿の解釈との差異を分析することで、延寿が従来の仏教思想を如何に組み替えているのか、それによりどのような仏教理解を呈示するに至ったのかを明らかにする。(2)現代中国における延寿と『宗鏡録』の評価の調査するため、延寿にゆかりのある杭州の各寺院を訪れ、各寺院の僧侶との交流、刊行物の調査などを行う。
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