2012 Fiscal Year Annual Research Report
植物の低温馴化過程におけるGPIアンカータンパク質の機能と凍結耐性との関連
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12J07373
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 岩手大学, 大学院・連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | GPIアンカー型タンパク質 / ショットガンプロテオミクス / 低温馴化 / 細胞膜 / マイクロドメイン / 凍結耐性 / アポプラスト / 植物 |
Research Abstract |
GPIアンカー型タンパク質(GPIAP)は糖鎖と脂質を介して細胞膜上に係留されているタンパク質であり、私の修士課程での研究からライムギの低温馴化過程で特異的に増加している可能性が示唆された。そこで、Phospholipaseを用いてGPIAPを細胞膜上から遊離させて単離し、ショットガンプロテオーム解析を用いて細胞膜画分に含まれるGPIAPの網羅的な同定を試みた。その結果、カラスムギ、ライムギ、Arabidopsisにおいてそれぞれ30,81,90種類のGPIAPを同定することができた。Arabidopsisにおいてはこれまで40種程度のGPIAPしか同定されていなかったが、今回用いた方法により、より少量の細胞膜から2倍以上のGPIAPを一度に同定することができた。さらに、低温馴化前後では、凍結耐性の弱いカラスムギではほとんどのGPIAPが減少していたのに対し、凍結耐性の強いライムギやモデル植物のArabidopsisではいくつかのGPIAPが有意に増加していることが示された。以上のことから、GPIAPの一部は低温馴化機構の一端を担い、凍結耐性の上昇に寄与しているものと考えられる。さらに、本年度は、GPIAPが存在すると考えられるアポプラストを抽出し、GPIAPの同定や低温馴化における変動の解析も試みた。アポプラストに関してはBoudartら(2005)のArabidopsisにおける報告を参考に、一部プロトコルを改変することで、純度90%程度の画分を得ることができた。さらに、上記のプロテオーム解析の結果を元に、GPIAPが欠失した変異体を用いて低温馴化後に凍結試験を行った。その結果、At3g04010遺伝子のプロモーター領域にT-DNAが挿入されたラインにおいては、野生型に比べ凍結融解後の植物体損傷度が増加しており、光合成活性が43%低下していた。定量RT-PCRを用いて低温馴化過程でのAt3g04010遺伝子発現を見ると、低温未馴化の状態と比較して、低温馴化1日目で70倍に増加し、低温馴化日数を経るに従って低下していくことがわかった。以上の結果から、低温を感知した後にこのGPIAPタンパク質の発現が誘導され、凍結耐性上昇の一助となっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GPIAPのプロテオーム解析に関しては、当初の予定通り、カラスムギ、ライムギおよびArabidopsisにおいてそれぞれ網羅的な同定と低温馴化応答性を示すことができた。また、GPIAPの生理学的解析に関して、多数のGPIAP欠損変異体ラインを用いた実験から、低温馴化機構に関与すると考えられる遺伝子の候補を選び出し、さらに低温馴化過程における経時的な遺伝子発現変化を表すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.GPIAPのプロテオーム解析に関しては、抽出したマイクロドメイン画分およびアポプラスト画分のプロテオーム解析により、低温馴化過程における網羅的なGPIAP変動を示し、投稿論文として結果を仕上げていく。 2.低温馴化過程に関与し、凍結耐性の上昇に寄与しているとみられる候補遺伝子(At3g04010)に関して、GUSプロモーターアッセイを用いて組織的な発現変動を解析していく。さらにGFP融合タンパク質を植物細胞内で発現させ、細胞内での詳細な局在解析を行う。また、候補遺伝子の機能を探るため、Cryo-SEMを用いて欠損変異体の細胞の凍結動態を観察する。
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