2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J07523
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横崎 統三 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特別研究員(PD)
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Keywords | 超性称性理論 / ヒッグス粒子 / 電弱対称性の破れ / 真空の安定性 |
Research Abstract |
報告者は、上記研究課題基づき、破れた超対称性をもつ「電弱対称性の破れ」の起源を説明する模型(理論)を複数提案した。特に今年度は電弱対称性の破れの起源と深い関わりのあるヒッグス粒子が発見されるという歴史的な瞬間もあり、報告者の提案した模型はこれから注目を集めていくことが期待される。しかし、この発見されたヒッグス粒子は次の2つの期待されていなかった事実を含んでいた。 1,超対称標準模型で期待される質量よりも約√2倍重い。 2,ヒッグス粒子が2つの光子(光の粒子)に崩壊する確率が期待されたよりも約1.5倍大きい(注:統計的な確率のゆらぎである可能性はあるが、そうではないという可能性を考えておくことは重要である)。 1について、超対称標準模型ではストップという粒子の量子補正によってヒッグス粒子の質量が引き上げられ、ストップが重ければ重いほどヒッグス粒子の質量も重くなる。ただし、1で示唆されているヒッグス粒子の質量を説明するためにはストップの質量はLHCで発見できる領域よりもはるかに重ければならない。また、 ミューオンの異常磁気能率が説明できるという超対称標準模型の利点を失ってしまう。報告者は、ストップのような新たな粒子を含む理論を考え、この粒子の量子補正によってヒッグス粒子の質量が自然に説明できることを示した。この場合、ミューオンの異常磁気能率が説明できるという利点は失われない。研究成果は、LHC実験における今後の指針を示すために開催されたATLASグループの研究会において報告された(招待講演)。 2については超対称標準模型では、ヒッグス粒子が光子に崩壊する確率はスタウという粒子の量子補正によって増幅されることがあることがわかっている。しかしそのような増幅がある場合、電弱対称性の破れた真空(つまり我々の住んでいる真空)の安定性が脅かされる。報告者は真空の安定性の議論から、ヒッグス粒子が光子に崩壊する確率に上限があることを、世界で初めて示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は「電弱対称性の破れ」の起源と深く関わるヒッグス粒子が発見された年であった。報告者は、「電弱対称性の破れ」の起源を説明するために、超対称性を持った模型(理論)を研究した。発見されたヒッグス粒子は、期待されていたよりも重く、そして光子への崩壊の確率が大きかった。報告者は、ヒッグス粒子のこのような性質を説明できる模型を複数個考え論文として発表した。また、光子への崩壊の確率が我々の住んでいる真空が安定であるという要請から理論的限界があることを初めて示した。最終的に、これらの成果は国際的な論文誌に掲載され、その数は7本にのぼることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、Bメソン混合への超対称性の破れの効果を積極的に考えていく予定であったが、LHCb(ヒッグス粒子を発見した加速器LHCの研究グループのひとつ)の発表した実験結果は、Bメソン混合には超対称性の破れはほとんど効いていないという事実を示唆していた。このため今後の研究では、LHCbの実験を説明できる理論に集中して研究を進める必要がある。実際、今年度に報告者の発表した理論の多くは、超対称性の破れがBメソン混合に影響しない理論であり、LHCbの実験結果を説明できる。したがって、さらにこれらの理論を発展させ、電弱対称性の破れ(我々が住むことのできる真空)の起源を明らかにしていく。また、暗黒物質の性質に重要なヒントを与える実験(AMS-02)の結果が出始めているので、これをもとに暗黒物質の正体を検証していく。
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