2012 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトiPS細胞を用いた肥大型心筋症の疾患モデリングと新規発症メカニズムの解明
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12J07629
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田中 敦史 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | iPS細胞 / 肥大型心筋症 / 疾患モデリング / エンドセリン-1 |
Research Abstract |
本研究では、若年・成人における突然死や心不全を引き起こす肥大型心筋症(HCM)に関して、iPS細胞技術を用いてヒトでの疾患モデルの作成を目的としている。HCM患者計3例と、健常人計3例からiPS細胞を樹立し、心筋細胞への分化誘導を行った。評価の対象として、HCMの表現型として考えられる心筋細胞の肥大と心筋細胞の錯綜配列について免疫染色と電子顕微鏡を用いたin vitroでの解析を行った。 患者HCM患者由来のiPS細胞から誘導した心筋細胞と健常人から同様に得られた心筋細胞において、両者の間で形態学的な差異は乏しい結果であった。そこで、心筋細胞肥大などに関与する複数のTrophic factorsを用いて誘導心筋細胞に化学的負荷を行った。その結果、複数の因子の中でEndothelin-1(ET-1)による刺激を加えたところ、HCM由来のiPS細胞から分化誘導された心筋細胞において、心筋細胞の肥大と単離心筋細胞内のサルコメア構造の錯綜配列などの表現型が有意に誘導された。次に、ET-1の受容体(Type A,Type B)阻害剤を用いてET-1シグナルの制御によるHCMの治療的応用の可能性を検討した。それぞれの阻害剤によるET-1のもつ表現型誘導作用への影響を解析したところ、Type A受容体阻害剤では表現型の発現が有意に抑制されたものの、Type B受容体阻害剤ではその抑制効果はみられなかった。 HCMは上述の病理組織学的所見に加え、拡張障害を中心とした'Cardiac dysfunction'が認められる。そこで、ET-1による心筋細胞への生理学的影響についての検討を行った。その結果、ET-1刺激により、健常人由来のiPS細胞から分化誘導された心筋細胞では拍動の方向性が均一に保たれたのに対して、HCM由来の同細胞では拍動の方向性に多様性が生じ、個々の心筋細胞における拍動の均一性が失われていた。 この結果はET-1による前述の細胞内錯綜配列を支持し、さらにHCMにおける心機能障害の根幹の一部である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HCM患者特異的ips細胞を複数例から樹立し、それぞれにおいて得られた心筋細胞を用いて、HCMの病態発現にET-1が強く関与している可能性を確認した。本研究は現在、国際誌への投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究より、「ET-1-ETtypeA受容体axis」がHCMの病態発現に重要な役割をもつことが示唆された。しかし,ET1が何故HCM患者においてのみ特異的に表現型の発現を促進したのか、そのメカニズムは依然として不明である。そのため、より上流での遺伝的異常の有無の検索が肝要と考えている。また、個々の細胞内におけるサルコメア配列の乱れがどのように組織としての心機能障害に関与しているか、コンピュータシミュレーションを用いた解析を予定している。
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Research Products
(5 results)