2012 Fiscal Year Annual Research Report
正20面体希土類磁性クラスターの長距離磁気秩序に対する研究
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12J07852
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
廣戸 孝信 東京理科大学, 基礎工学部・材料工学科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 磁性準結晶 / 正20面体クラスター固体 / 磁気秩序 / 幾何学的フラストレート / 4f電子系 / 逐次移転・メタ磁性 / 共鳴X線磁気散乱 / 磁気履歴 |
Research Abstract |
正20面体準結晶やその近似結晶は、局所構造に正20面体クラスターを有することが知られている。特に、Tsai型正20面体クラスターを有する一連の合金群においては、正20面体希土類磁性サイトが存在していることから、正20面体構造と局在スピンが織りなす磁性・磁気秩序は非常に興味深い系となる。しなしながら、上記の合金群においてはスピングラス的な振る舞いが知られているのみであった。ところが、カドミウム-テルビウム近似結晶はスピングラスとはならず、T=24Kにおいて反強磁性磁気秩序を形成すること(Tamura et al, PRB(2010)が明らかとなったことで、磁気相転移のメカニズムとその磁気構造に関心がもたれる。このような背景のもと、本年度は、高品質なカドミウム-希土類2元系近似結晶の単結晶作製、低温磁気物性測定、並びにカドミウム-(ガドリニウム/テルビウム/ホルミウム)についての放射光X線磁気散乱実験を行った。物性測定の結果、局在4f電子のde-Gennes因子におおよそ従う転移温度において反強磁性転移を示すことが明らかとなった。また、系によっては逐次磁気転移と磁化曲線での明瞭な磁気ヒステリシスと多段磁気転移を示すことが分かった。これらは、正20面体構造に起因する幾何学的フラストレートの効果によるものと考察している。 放射光X線磁気散乱実験では、カドミウム-(テルビウム/ホルミウム)近似結晶に関しては、磁気転移温度以下において明瞭な磁気ブラッグ反射を観測した。一方、カドミウム-ガドリニウム近似結晶については、磁気転移温度以下においてインコメンシュレートな磁気秩序を形成していることが明らかとなった。 さらに、近年合成された希土類正含有Au-(Si,Ge)-Gd近似結晶において、正20面体クラスター固体としては初めての強磁性転移を示すことを明らかにした。この研究により、正20面体希土類クラスター固体がスピングラス以外の多様な磁気秩序を形成していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
カドミウム・希土類近似結晶の磁化・比熱の測定から、反強磁性磁気秩序の形成とそのメカニズム、さらには正20面体構造に由来すると考えられるメタ磁性・逐次転移の存在が明らかとなった。また、カドミウム・ガドリニウム近似結晶の非整合磁気秩序相やAu-(Si,Ge)-Gd近似結晶の強磁性相は、正20面体上のスピンという幾何学的特徴がスピングラス的な凍結から長距離磁気秩序に至るスピン配列の多様性を生んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
カドミウム希土類近似結晶の良質な単結晶により、バルクの磁気物性や磁気秩序のメカニズム、ひいては正20面体構造に由来するメタ磁性・逐次転移の存在などが明らかとなりつつある。しかしながら、当初の目的である、反強磁性秩序相におけるスピン配列の解明には膨大な回折実験が必要であると考えられる。その原因として、共鳴X線による磁気ブラッグピーク強度が極めて弱いこと、カドミウム・ガドリニウムに代表されるようなインコメンシュレート相が存在しうることなど、放射光X線のみを用いた磁気構造解明は困難であると予想される。今後は、カドミウムの同位体を用いた中性子回折などの手法を合わせて磁気構造の解明を行いたいと考えている。
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Research Products
(4 results)