2012 Fiscal Year Annual Research Report
ツバルにおける気候変動への危機意識の形成と歴史的知識の記録化に関する人類学的研究
Project/Area Number |
12J07905
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
小林 誠 お茶の水女子大学, 大学院・人間文化創成科学研究科, 特別研究員PD
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Keywords | 気候変動 / 危機意識 / 「伝統文化の消滅」 / 歴史実践 / 記録化 / 文化人類学 / ツバル / オセアニア |
Research Abstract |
本研究は、人類学的なフィールドワークと文献調査を通じて、気候変動による伝統文化の消滅という危機意識を背景にツバルで展開している歴史の記録化について研究することを目的とする。この目的を達成するため、2012年度では記録化の活動をローカルな社会的文脈に位置づける視野を獲得するべく、オセアニアの歴史実践をめぐる既存の研究に関しての文献調査を集中的に進めていった。具体的には、オセアニアの他の地域で展開している歴史の記録化や共有化を目指す運動の特徴と展開過程についての研究動向をレビューし、それを基にツバルの事例の特徴を明らかにしていった。 調査の結果、広くオセアニア諸社会における伝統復興運動において、自社会の歴史の記録化が叫ばれることが多いものの、ツバルの事例のように、記録化の動きが自生的に展開し、かつ極めて詳細に記録化が進んでいるケースはかなり稀であることがわかった。これには、20世紀初頭から識字率が高かったこと、植民地支配や人類学者を始めとする様々な学術研究者によって伝統文化を記録化するという活動が知られていたことなどが社会・文化的な背景としてあると考えられる。さらに、直接的には、合意やコンセンサスを形成することを尊ぶ文化的な背景が強く作用していたことが明らかになった。ツバルでは、島の意見が一つになることが強く望まれているが、現状では、すべての人々が合意する歴史認識を形成することができていないというジレンマを抱えている。こうした状況に対して、多様な意見の中から共通性を見出していくことで問題解決が図られてきており、その結果、詳細な歴史記録がつくりだされていったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
10月に現地調査を行うことを計画していたが、同時期に大規模な会議が一ヶ月ほど開かれることになり、かなりの混乱が予想されるため、現地調査をすることができなかった。ただし、本年度は文献調査が主であり、かつ同調査も現状把握に関する予備的なものであったため、本研究の大枠には影響しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、気候変動による伝統文化の消滅という危機意識が記録化の作業や内容にどの程度、影響を与えているのかについて集中的に分析していく。そのために、まずは海面上昇や干ばつなどの気候変動に起因する具体的問題と危機意識に関する諸民族の状況に関する情報を収集・分析し、それを今年度の研究成果と照らし合わせて考察することで、歴史の記録化という実践をグローバルかつ今日的な問題系に位置づけることを試みる。こうした作業を通して、記録化というナヌメア島民による歴史実践を事例に、気候変動という不確定な将来に直面し、危機感を募らせている島嶼民が、いかに過去や現在を(再)定義し、未来への実践を紡ぎだしているのかを明らかにしていく。
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Research Products
(6 results)