2012 Fiscal Year Annual Research Report
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12J08061
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮崎 匠 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 絵画論 / ジュネーヴ / スイス美術史 / 肖像画 |
Research Abstract |
平成24年度には、課題である18世紀ジュネーヴの絵画論研究の第一段階として、国際的な活躍のために啓蒙期ジュネーヴ画壇で最も重要な人物と目される、画家ジャン=エティエンヌ-リオタールと美術愛好家フランソワ・トロンシャンの絵画理論に関する、文書資料及び造形作品の調査と分析、国内外におけるその成果の発表を行った。研究の実施内容に関しては、本年度には計画通りジュネーヴの大学図書館および同大学付設文書館における絵画論関係資料の収集を行い、さらにジュネーヴ美術博物館における作品調査、パリの国立公文書館におけるフラシズ宮廷関連の記録資料調査も実施した。 その結果、まずリオタールの絵画論に関しては、この画家が著述の中で重視している肖像画の「肖似」に関する問題について、作品享受者による作品評価の文脈の中に位置づけながら再検討する余地があることを確認することができた。そのためリオタールが活躍したフランス宮廷で適用されていた肖像画評価の基準を同宮廷の記録文書の記述などをもとに分析したところ、宮廷人たちが適用していた身体的特徴に関する評価基準と、リオタールの肖像画の肖似性の高い人物表現との間には密接な関係があることを明らかにすることができた。この研究結果の内容は周本美術史学会の学会誌『美術史』誌上で発表された。 またトロンシャンの絵画論に関する文書史料を収集・分析した結果、リオタールとトロンシャンの絵画論は、17世紀のフランドル・オランダ派画家の作品に認められるような、入念な作品の仕上げを高く評価する点で、共通する内容を持つことがわかった。このような評価は作品の仕上げには入念さよりも熟達した筆さばきを求めた、当時のヨーロッパ各国の目利きたちの意見とは対立する性格を持つ。ジュネーヴの画壇関係者たちが展開していたこの独特の絵画論に関する分析結果は、ローザンヌで行われた研究報告会で発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、予定通り文書・絵画資料の調査・分析を進捗させた結果、フランス宮廷における絵画作品評価基準との関係、および重要なジュネーヴ画壇関係者であるリオタールとトロンシャンの絵画論の共通点という、18世紀ジュネーヴ絵画論の多角的理解の進捗に関わる重要な論点を明らかにすることができ、さらにその成果について国外における口頭発表の実施と、国内の査読付き学術誌における論文掲載に至ったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は採用第一年次に明らかにすることができたジュネーヴの絵画論研究に関する主要な論点について、ジュネーヴ大学図書館と付設文書館におけるフィールドワークを行い、関連する文書および絵画資料の調査を続行することによりこその内容に関しさらに深い理解を得ることを試みる。また18世紀にブランス語で著述・出版された美術関係書を参照し、同時代のフランス語圏の国であるフランスおよびベルギーで美術愛好家により展開されていた絵画論の中の同じテーマを扱う部分を精査していく。これによりジュネーヴの絵画論の内容と特徴を、言語圏を同じくする他地域で同時期に形成されていた絵画論と比較することにより相対化して把握し、同時に18世紀フランス語圏ヨーロッパ絵画論史の大きな枠組みの中に位置づけながら理解することを目指す。
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Research Products
(1 results)