2013 Fiscal Year Annual Research Report
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12J08160
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤田 智弘 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特別研究員(DC2)
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Keywords | インフレーション / 宇宙磁場 |
Research Abstract |
今年度は種磁場生成に関して3本の論文を執筆した。1つ目は、インフレーション磁場生成と宇宙背景放射の整合性について調べたものである。昨年はインフレーション磁場生成の理論内部における整合性を精査することで、インフレーションエネルギースケールへ制限をつけたが、他の観測との整合性も当然無視することはできない。有名なモデル(Ratraの提唱したKinetic coupling model)を仮定したとき、宇宙背景放射の観測に抵触しないことから、生成時場強度に対して非常に強い制限が得られることを示した。2つ目の論文では、その議論をモデルに依らないものに一般化し、インフレーション磁場生成理論が従うべき条件を導いた。その結果、現在観測される10^(-15)Gの宇宙磁場がインフレーション起源であるならば、インフレーションのエネルギースケールは30GeVを超えられないことを示した。この値は通常想定される値よりずっと低く、非常に有意義な結果といえる。3つ目の論文では、Cambridge大学のB. J. Barrowらが提唱するインフレーション後の磁場増幅機構(Super-adiabatic amplification)を調べ、それが物理的な状況では実現しないことを示した。Barrowらはインフレーション後に磁場を増幅することで各種の制限を逃れ得ると主張していたが、曲がった時空での量子論を正しく考察すると彼らの主張する増幅機構は働かないことが明らかになった。 今年度末(2014年3月)にBICEP2実験が結果を公表し、インフレーションエネルギースケールが10^(16)GeVであると報告した。この値は私の研究で求めた上限値30GeVよりもはるかに高く、従ってインフレーションだけによる磁場生成は不可能であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
否定的ではあるものの、「インフレーションによって観測された宇宙磁場は説明できるのか?」という重要な問題に対して、モデルに依らない一般的な解答を出すことができた。これを2年次で達成できたのは、当初の計画以上の進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はインフレーション後の磁場増幅を考えることが必須である。既に、再加熱までの期間を用いる方法や、磁気流体力学(MHD)が示すInverse cascade現象など、後期磁場増幅の可能性が議論されている。実際、宇宙背景放射・構造形成に代表されるように、インフレーション後の時間発展はどの物理量にとっても重要であり、磁場だけは単純な減衰しかしないという従来の仮定は見直されるべきである。そのため、素粒子的宇宙論だけでなく磁気流体力学等も取り入れた包括的な研究が重要となる。
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Research Products
(15 results)