2012 Fiscal Year Annual Research Report
量子統計力学の基礎付けのための新しい熱緩和機構の探索
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12J08408
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 達彦 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 統計力学基礎 / 量子力学基礎 / Lieb-Liniger模型 / ベーテ仮設 / ミクロカノニカル分布 |
Research Abstract |
孤立量子系の熱平衡化機構であるeigenstate themalization hypothesis(ETH)の有限サイズスケーリング解析を行った。ETHの主張は、マクロに見て小さなエネルギーシェルの中にあるエネルギー固有状態は、粒子密度や二点相関関数などの少数自由度物理量に対して同じ期待値を与えるというものである。ETHはこれまで系のサイズを小さく固定した場合にのみ解析がなされていた。一方、熱力学極限へ近づくときの振る舞いは、ハミルトニアンを厳密対角化する数値計算コストが極めて大きいという困難のためになされていなかった。今回Lieb-Liniger模型にベーテ仮設法を適用することにより、この数値計算コストを回避し、ETHの有限サイズスケーリング解析に成功した。その結果、ETHが成立する精度は熱力学極限に近づくにつれて高々系のサイズの幕でしか良くならないことが分かった。これによりETHが与える熱平衡化への寄与は、他の熱平衡化機構であるtypicalityやeigenstate randomization hypothesis(ERH)に比べて、高々系のサイズの対数程度の補正でしかないことが分かった。上記3つの熱平衡化機構は独立に提案され個別に議論されてきたが、'今回の成果によりそれらの相対的な重要度が定量的に明らかにされた。この結果は、どの機構が孤立量子系の熱平衡化において最も重要であるかという問題の解決に向けて、重要な一歩である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
複数の熱平衡化機構の相対的重要度を定量的に決定したことは、孤立量子系の熱平衡化機構の特定という目標に向けて大きな一歩だと言える。この点から、少なくとも研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これに加えて、孤立量子系の熱力学第二法則に関する研究をスタートさせ、結果が出つつあることを鑑みれば、研究は当初の計画以上に進展していると言える。 熱平衡化機構の研究に関しては、eigenstate randomization hypothesis(ERH)が働くための状態の仮定の正当化の問題に取り組む。しかし当初予定していた時間依存ハミルトニアンの枠組みにおいては、むしろ量子デコヒーレンスの効果が重要になる可能性が明らかになった。そこで、古典的ノイズがどの程度量子デコヒーレンスを起こすのかという重要な問題にも取り組みたい。孤立量子系の熱力学第二法則の研究においては、新たにエネルギー表示を用いる証明も提出された。現在用いている対角エントロピーのアプローチとの関連性を明らかにし、証明を完結させる必要がある。
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Research Products
(8 results)