Research Abstract |
今年度は,実際に測定・録音された乳幼児の発話音声から,調音運動の発達を捉えることを目的とした.具体的には,(1)母音生成時の音響的特徴量から乳幼児の調音運動を捉えること,〈2)乳幼児の発話順序における調音器官の働き,を解明するべく研究を行った.この2点について以降でその詳細について述べる. 先ず,(1)に関して,多くの先行研究において,乳幼児が発声する音声の音響に関する分析が行われている.しかし,調音運動によって生成される音声に関しては多くの知見が得られているものの,調音運動自体に関しては未だに十分な知見が得られていない.これは,調音運動の測定が困難であることに起因する.特に,乳幼児に関しては,口唇・顎の測定は行われているものの,言語音の生成に関して最も重要な役割を占める舌の運動を,言語音発声時に測定した研究は存在しない.そこで本研究では,先行研究において提案されている発声モデルを利用し,乳幼児発話の音響的特徴量から,調音パラメタを推定することで,乳幼児の母音生成時の調音運動の発達を捉えることにした.その結果,生後1年未満においては舌の前後方向の動きと口唇の開き具合の2つの制御によって母音が生成されているが,その後,舌先,舌の上下方向の動き,顎の運動が加わることで,日本語母音の生成が実現されることを明らかにした. 次に,(2)に関して,非常に複雑な運動である発話を実現するためには,様々な運動を順番に組み合わせることが必須であるが,この組み合わせについて,先行研究において,調音器官の関係性について十分な議論が成されていない.本研究では,子音-母音-子音の連鎖に着目し,隣接する子音の生成に寄与する調音器官の関係性について分析を行った.結果,発達初期においては反復が多いが,徐々に異なる子音を組み合わせることが可能になること,その組み合わせの発達に関して,同じ調音器官を使った運動は初期から観察されるが異なる調音器官を使った運動は比較的遅くから現れること,異なる調音器官を使った運動は同じ調音器官を使った運動よりも急速に発達すること,を示した.この発達傾向は,調音器官間の位相関係に起因している可能性があり,今後は,発話モデルを用いて,調音運動における相転移によって発達変化を捉えることができるのか,検討する予定である.
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