2012 Fiscal Year Annual Research Report
水素結合型集積構造を有するスピン転移錯体のヒステリシス発現機構の解明
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12J08556
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
藤波 武 熊本大学, 大学院・自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | スピンクロスオーバー / 分子間相互作用 / 協同効果 / 水素結合 / 鉄(III)錯体 / ヒステリシス / シッフ塩基配位子 / 一次元鎖状構造 |
Research Abstract |
スピンクロスオーバー(SCO)現象は本質的に単分子由来の現象であるが、分子間相互作用に基づく共同効果に大きく支配される。本研究は、分子間水素結合に基づく集積構造を有し、大きな熱および光履歴を発現するSCO錯体の合成を目的にしている。この研究の解決となるモデル錯体として、これまでに2-ヒドロキシアセトフェノンとエチレンジアミンの2:1縮合物である対称型シップ塩基配位子H_2hapenとイミダゾールが軸位に配位した鉄(III)錯体[Fe(Him)_2(hapen)]Y(Y=BF_4^-,CIO_4^-,PF_6^-,AsF_6^-,SbF_6^-,CF_3SO_3^-,BPh_4^-)を合成している。一連の化合物は多様な集積構造を示したが、その中でイミダゾールーフェノキソ酸素に分子間水素結合を有する一次元鎖状化合物[Fe(Him)_2(hapen)]Y(Y=PF_6^-,AsF_6^-,SbF_6^-)は、急激なスピン転移を示した。また、鉄(III)錯体では珍しい熱ヒステリシスを観測した。 さらに配位子場強度を調整するために2-ヒドロキシアセトフェノンとアセチルアセトン、エチレンジアミンの1:1:1縮合物である非対称型シッフ塩基配位子H_2hapacenを用いた鉄(III)錯体[Fe(HIm)_2(hapacen)]-BPh_4・solvents(solvents=2EtOH,1-BuOH,2-PrOH)を合成した。単結晶が得られた錯体[Fe(HIm)_2(hapacen)]-BPh_4・2EtOHは単結晶X線構造解析から、結晶溶媒であるエタノール分子を介した水素結合による環状二核構造を形成していた。また各錯体は対称型配位子鉄(III)錯体と比較し、より高温域で緩やかなスピン転移を示したが、熱ヒステリシスは観測されなかった。以上の結果は、弱い分子間相互作用である水素結合と、それに基づく次元構造がSCO挙動に重要な影響を及ぼすことを示しており、熱ヒステリシスを獲得するのに要求される新しい分子設計指針を与える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
従来観測されていなかった鉄(III)系でヒステリシスをともなうスピン転移錯体を見出しているが、転移温度や結晶の安定性などの問題から低スピン状態での構造決定ができておらず、本研究課題である熱ヒステリシスの発現に必要な具体的な水素結合に基づく分子設計指針の解明には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
鉄(III)錯体では珍しい熱ヒステリシスをともなう急激なスピン転移を示す分子系を既に見出している。 今後は、シッフ塩基配位子への置換基の導入、各種単座配位子と陰イオンの検討、選定を行い、スピンサイト間の水素結合形成による集積構造を一次元から二次元、三次元へと拡張した一連のSCO錯体群を合成し、SQUID測定、単結晶X線構造解析により次元構造に連動した転移温度、熱ヒステリシス等のスピン転移パラメーターの変化を捉え、本研究課題解決を目指す。 さらにLIESST(Light Induced Excited Spin State Trapping),reverse-LIESSTの測定を行い、光照射によるスピン転移過程についても検討する。研究を遂行する上での問題点として、転移温度や結晶の安定性などの問題から低スピン状態での構造決定ができていない点が挙げられるが、これについては共同研究者の協力を得て極低温単結晶X線構造解析を行う予定である。
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Research Products
(2 results)