2013 Fiscal Year Annual Research Report
水素結合型集積構造を有するスピン転移錯体のヒステリシス発現機構の解明
Project/Area Number |
12J08556
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
藤波 武 熊本大学, 大学院自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | スピンクロスオーバー / 分子間相互作用 / 協同効果 / 水素結台 / 次元構造 / 鉄(III)錯体 / ヒステリシス / 一次元鎖状構造 |
Research Abstract |
分子集積の多様性は、金属錯体の物理化学的性質や機能性に大きな影響を及ぼす。単分子挙動と捉えられるスピンクロスオーバー(SCO)現象も、超分子集積様式に影響される。SCOは、外部情報により高スピン状態と低スピン状態間を相互変換する現象であり、その挙動は単一SCO分子の配位子場強度のみならず、隣接分子間に働く協同効果に大きく支配される。本研究は、分子間水素結合により組織化する分子設計を施したスピン転移化合物を合成し、水素結合に基づいた集積構造の次元性がスピン転移ヒステリシスの発現に及ぼす影響を詳細に明らかにし、スピン転移ヒステリシスの発現機構の解明を目的としている。今年度、この研究目的解決に相応しいSCO鉄(III)錯体として、o-ヒドロキシアセトフェノンとエチレンジアミンの1:1縮合物からなる平面N_2O_2型シッフ塩基配位子hapenと軸位にイミダゾールHimが配位した鉄(III)錯体[Fe^<III>(Him)_2(hapen)]AsF_6を合成した。この錯体の分子構造は、平面四座配位子hapenと軸位に2つのイミダゾールが配位した六配位八面体構造を有しており、イミダゾール窒素と隣接鉄(III)カチオンのフェノキソ酸素間でNH…O水素結合を形成して一次元鎖状構造を構築していた。この一次元錯体は、鉄(III)錯体系では稀な急激なスピン転移と熱ヒステリシスを観測し、SCO分子が水素結合を駆動力として組織化されることで、急激なスピン転移と熱ヒステリシスが発現することを示した。現在、この一次元組織化鉄(In)錯体系を二次限系に拡張する錯体へと展開するため、新規四座配位子としてメチルエステル基とエチルエステル基をそれぞれ導入したサリチルアルデヒドとエチレンジアミンの1:1縮合物からなるN_2O_2型シッフ塩基配位子の合成し、これを用いた鉄(III)錯体の合成に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題解決に相応しい錯体として、結晶溶媒を含まず、分子間水素結合により一次元鎖状に組織化するSCO鉄(III)錯体の合成し、鉄(III)錯体系では稀なヒステリシス発現を観測することができた。しかしながら、次元性の拡張によるスピン転移ヒステリシスの発現に及ぼす影響についてまだ詳細に明らかにできておらず、ヒステリシスの発現機構解明には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、一次元鎖状鉄(III)錯体系を二次限系に拡張する錯体へと展開するため、新規四座配位子としてメチルエステル基とエチルエステル基をそれぞれ導入したサリチルアルデヒドとエチレンジアミンの1:1縮合物からなるN_2O_2型シッフ塩基配位子の合成し、これを用いた鉄(III)錯体の合成に取り組んでいる。既に、隣接鉄(III)サイト間に相互作用がなくスピン転移を示さない錯体と、分子間水素結合による環状二核構造をもつSCO錯体の合成に成功している。この系を基に、今後は次元構造を一次元から三次元へと拡張した錯体を合成し、分子間水素結合とそれに基づいた次元構造がスピン転移ヒステリシスの発現に及ぼす影響について詳細に明らかにしていく。
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Research Products
(5 results)