2013 Fiscal Year Annual Research Report
生体適合性を有する3次元ナノ・マイクロパターン化足場材料による歯周組織再生
Project/Area Number |
12J08746
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
北上 恵理香 山形大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ヒト歯根膜細胞 / PMEA / 生体適合性 / 歯周組織再生 / 中間水 / 血小板粘着 |
Research Abstract |
抜去歯から得られるヒト歯根膜細胞(PDL)は再生医療の有用な細胞源として期待されている。我々はこれまでに優れた生体適合性を示すPoly (2-methoxyethyl acrylate)(PMEA)とその類似体上のPDLは接着、増殖し、細胞外マトリックス(ECM)を産生することを報告した。しかし、これらの基板上のPDLの接着機構は不明である。そこで本研究ではPMEAとその類似体上で見られた血小板粘着抑制とPDLの選択的な接着機構について、高分子の表面物性および水和構造の観点から考察した。 PMEAおよび類似体の各高分子をスピンコーターによりPETにコートした。細胞接着はPET、Fibronectin (FN)を陽性対照、PMPCを陰性対照とした。PDLは10%ウシ胎仔血清添加培地で、1×10^4cells/cm^2で播種し1時間培養後、クリスタルバイオレット法で染色し、細泡核を計測した。また各基板上に吸着したFibrinogen (Fbn)とFNの細胞接着部位の定量を、構造特異的抗体を用いたELISA法にて行った。 PMe2MAを除くPMEA類似体上でPDLはPETと同程度接着した。各高分子の接触角と細胞接着には明確な相関がみられなかったが、中間水量と細胞接着には良い相関がみられた。 PDLの接着機構を調べるために、EDTA添加によるインテグリン依存の接着を阻害した。全ての基板上で98%以上の細胞接着が阻害されたことからPDLはインテグリン依存の接着機構であることがわかったため、PDLの接着には各基板上の吸着タンパク質が重要であることが示唆された。各基板上に吸着したFbnとFNの細胞接着部位の定量をELISA法にて行った。PMEAとその類似体上では血小板が粘着する際のリガンドであるFbnの細胞接着部位の露出が少ない一方、FNに関しては露出量に差が見られ、中間水量が増加するにつれてFNの細胞接着部位の露出量が減少した。以上の結果から含水高分子に形成される中間水量が吸着タンパク質の細胞接着部位の露出量と細胞接着に影響を与えると考えられる。本研究の結果から、中間水量を制御した高分子は生体適合性を有し、PDLの接着、増殖、ECM産生を制御可能な歯周組織再生用足場材料として期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、これまでに医療廃棄物とされていた抜去麿由来の歯根膜細胞を細胞源として着目し、独自の生体適合性材料を用いることで、安全に歯根膜細胞の接着、増殖、機能を制御できるアプローチを見出した。また、ベルギーのルーバン大学へ留学することで国際感覚を身に付けたと同時に、各種高感度計測手法を導入することにより、材料表面の水和状態、吸着タンパク質の構造、細胞接着との相関関係の解明に取り組んだ。この相関関係をより深化させることで、細胞接着機構の詳細が明らかにされ、新しい材料設計指針が構築されることが期待できる。今年度の成果は、5件の学会発表、論文(再投稿中)に結実した。さらに、4件のアウトリーチ活動を積極的に行い、高校生へ研究の魅力を伝えてきた。本研究の取り組みは、健康長寿社会世界一を目指す我が国発の基礎研究から個別化医療用の製品化まで大きな期待が寄せられており、複数の企業との共同研究が進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
・接着斑と細胞接合分子の抗体染色を行い、細胞―材料間、細胞―細胞間相互作用を海外留学で学んだ超解像蛍光顕微鏡技術により解析する。 ・RT-PCRにて、脂肪、骨、筋肉、未分化マーカーを調べ、細胞外マトリックス産生、細胞分化に関連する遺伝子発現を明らかにする。 ・材質とナノ・マイクロメートルレベルでの表面形状を組み合わせて、中間水量を制御した生体適合性材料上で、細胞の接着・増殖・機能の評価、遺伝子発現、細胞外マトリックス産生、細胞分化などを調べ、超解像蛍光顕微鏡を用いた細胞―材料間、細胞―細胞間相互作用の解析を行い、細胞―材料間相互作用を解明することにより、材料が有する中間水量と細胞接着との相関関係を明らかにする。 ・材質と表面形状を組み合わせて中間水量を制御した生体適合性材料を用いて、ヒト歯根膜細胞に含まれる幹細胞を分取し、未分化状態と多分化能を保持した幹細胞を効率よく増殖・分化できる条件の探索を行う。 ・健康寿命の延伸・QOL(生活の質)の向上を目指し、医療材料の機能発現機構の本質に基づく医療製品の開発を進める。
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Research Products
(9 results)