Research Abstract |
一般に, 水からのウイルス検出は, ウイルス濃縮を要するが, ここで夾雑物質もともに濃縮されてしまい, RT-PCRによるウイルス検出効率の低下が生じる. 検出効率の低下を引き起こす物質の特性を評価した事例は存在せず, このため検出効率向上のための手法も確立していない. 水のウイルス学的安全性評価のためには10-100Lの大容量水試料を検査することが求められるが, 現状では検査水量の増大は必ずしも検査感度の向上をもたらさない. 昨年度の研究により, ウイルス濃縮液中には疎水性及び30kDa程度の有機物が含まれやすいことを見出した. さらに, DAX-8樹脂及びゲルろ過による濃縮液精製がウイルス検出効率の向上に有効である可能性を見出した. 本年は考案した濃縮液精製手法の更なる適用及び, 遺伝子配列解読への親和性の検証を試みた. 東京都及び宮城県で収集した河川・海水試料100L程度をウイルス濃縮操作に供し, 0.7mL程度まで減容した. 濃縮液を上述の精製操作に供し, 定量RT-PCRによるウイルス遺伝子数の定量, RT-Nested-PCR及びSanger Sequenceを用いたGII-ノロウイルスの遺伝子配列解読, 次世代シーケンサーを用いたRNAの網羅的解読を試みた. 濃縮液精製手法の適用により, GI及びGIIノロウイルス, サポウイルス, エンテロウイルス, アイチウイルスGII及びGIIIFRNAファージなど, 複数種のウイルスについて定量精度の向上が確認された. また, 精製後の奥多摩河川水濃縮液中のGIIノロウイルス遺伝子数は1.5~3.0copies/tube程度であった. これら低濃度試料からも, RT-Nested-PCR及びSanger Sequenceを用いた遺伝子配列解読が可能であることを確認した. また, 精製後のウイルス濃縮液を用いた次世代シーケンサーによるRNAの網羅的解読では, 上記ウイルス群に加え, アストロウイルスやピコビルナウイルス, ヒト腸管系ウイルスとは形状の大きく異なるトウガラシ微斑ウイルスなどの植物ウイルス様の遺伝子配列が確認された. これらの結果は考案した濃縮液精製手法が, 幅広い水中ウイルスに対して有効であること, また, 水中ウイルス解析に用いる多様な分子生物学的手法との親和性が高いことを示すものである.
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