2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J08973
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
LEE Sangheon 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 進化 / 言語進化 / 系統地理進化 / 系統樹分析 / アイヌ語 |
Research Abstract |
近年の研究成果により、言語は、まるで生物のように突然変異を起こしてそれを蓄積して行くこと、および言葉の変化や枝分かれの道筋(系統関係)の形成には規則性があり、尚かつヒトの分散パターンを反映することが明らかになって来た。私はこのような知見をベースに、日本列島の諸言語を研究対象に系統地理分析を行い、北海道のアイヌ語は約1300年前に北海道の北部において発生したことを結論づけた。系統地理分析とは、もともと生物進化を研究するために開発された手法であり、最近は新型インフルエンザの系統進化やその地理的起源を調べる際によく使われている分析法である。アイヌ語が約1300年前の北海道の北部において発生したという結果は、アイヌの起源説として長年支持されて来た「二重構造説」とは異なるものであり、近年のミトコンドリアDNAを用いた研究結果から提案された「オホーツク人混血説」と一致する結果である。この研究成果は、アイヌ語の起源を時間と空間という2つの次元で再現すると同時に、その話者であるアイヌの人類史を書きかえる可能性を示唆するものである。また、狩猟採集民族の系統進化が再構築された事例はアイヌ語が初めてであり、言語の系統進化は、インド=ヨーロッパ語族やオーストロネシア語族といった農耕民族の言葉に限定される現象ではなく、より広範囲で観測できる現象であることをも示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの結果をベースに、今後より広い範囲の言語族を対象に同類の分析を行いつつ、長期的にはそのメカニズムを究明する研究へ進展させることを期待出来る。従って、現在までの達成度はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、アジアの緒言語族から抽出したデータを分析し、遺伝学や考古学からのエビデンスと照らし合わす作業に取り組む。また、言語進化という現象を生み出すメカニズムの1つとして「地理的隔離」を検討する。
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