2013 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡系熱場の理論を用いた素粒子論的宇宙論の統一的理解
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12J09035
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
向田 享平 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DCI)
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Keywords | スカラー場 / 熱場の理論 / カーバトン / サクシオン / 再加熱 |
Research Abstract |
本年度は、主に凝縮したスカラー場の運動に注視し、特にその発展に対して背景プラズマが与える影響に焦点をあてた。主に三つの研究からなる : (i)カーバトンの運動の再考、(ii)粒子生成によるスカラー場のトラッピングとサクシオン宇宙論、(iii)再加熱後(最中)の熱化過程、である。以下順に説明する。 (i) インフレーション中にインフラトンより軽いスカラー場は、量子揺らぎを得てその揺らぎを輻射に転換することで密度揺らぎを生成することができる。この仮想的なスカラー場をカーバトンと呼ぶ。本研究ではカーバトンの運動に対する背景プラズマの影響を詳細に調べた。結果、カーバトンとプラズマとの相互作用は非常に抑制されていなければ、Planck衛星の制限と矛盾してしまうことを新たに示した。一方で非常に簡単なケースでその制限を逃れることができることも新たに指摘した。 (ii) スカラー場が別の粒子と結合しているとその粒子が軽くなる点にスカラー場が捕まってしまうことが知られている。本研究では、背景プラズマとの相互作用の影響を考慮に入れて、このトラッピング現象を詳細に調べた。具体的には、超対称アクシオン模型を念頭におき、その超対称パートナーのサクシオンの運動を解析した。輻射補正でサクシオンを安定化するシンプルな模型だとサクシオンのトラッピング現象はほぼ不可避であることを示した。また背景プラズマとの相互作用によってアクシオン過剰生成の問題が回避される可能性を指摘した。 (iii) Planck-suppressed decayを介してインフラトンが宇宙を再加熱する場合、崩壊直後の粒子たちは熱平衡状態に比べて粒子数が非常に少ないため熱化が遅れるという議論が過去にあった。本研究では、bottom-up thermalizationがおこるため熱化は遅れないことを一般的に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りカーバトンの運動の再考というプロジェクトを完遂させることができ、背景プラズマとの相互作用について非常に強い一般的な制限を得た。また、スカラー場のトラッピング現象を背景プラズマとの相互作用を考慮に入れて一般的に議論できた。サクシオンという観点からみても、アクシオン過剰生成の問題を背景プラズマとの相互作用で回避できる可能性は非常に重要である。再加熱後の熱化過程についてはPlanck-suppressed decayを介するほとんど全ての模型に適応できる議論であり、インフラトンと他の宇宙の熱史との共存性を議論する際に、我々が得た結論を避けて議論することはほとんどできない。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きスカラー場の凝縮の運動に焦点を当てて研究していく。特にBICEP2によってインフレーション由来の原始重力波が発見された。むろん他の観測結果との整合性が重要だが、仮にこれが正しければ、インフレーションのエネルギースケールがハッブルパラメータにして104GeVに定まったことを意味する。このような非常に大きなエネルギースケールのインフレーション模型の構築は今後ますます重要になってくるであろう。再加熱の詳細を含めて考察していきたい。また、インフレーションスケールが非常に大きいため、軽い場はより大きな量子揺らぎを得がちになる。それによってアクシオンの付随するPQ対称性は回復していなければならない。この後アクシオン過剰生成を避けることができるか詳細を詰めていきたい。
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Research Products
(12 results)