2012 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫内部複合共生系を成立させる分子機能の解明とその阻害による病虫害制御法の新開発
Project/Area Number |
12J09071
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
藤原 亜希子 富山大学, 先端ライフサイエンス拠点, 特別研究員(PD)
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Keywords | 共生細菌 / 農業害虫 / 複合共生系 / タバココナジラミ / アブラムシ |
Research Abstract |
本申請課題では、農業害虫とその共生細菌および植物病原ウイルスという複合共生系を研究対象とする。害虫化に深く関与する「宿主昆虫-共生細菌-植物病原ウイルス間」という異なる生物同士の最密接な空間で働く高度な共生分子機構を解明し、その阻害法の探索を通して、環境負荷の少ない新規病虫害防除法の開発に繋げることを目的とする。 今年度は、当初の計画にあったモモアカアブラムシの他、タバココナジラミも対象生物に加え研究を行った。まずは、両昆虫種に対する安定的な飼育法を選定し、それぞれ複数系統を確立した。特異的プライマーおよび細菌16S rRNA遺伝子配列のシーケンシングにより、それらの維持系統が保有する共生細菌叢を明らかにした。その過程で、タバココナジラミでは、バイオタイプによって共生細菌叢が明確に異なること、さらには農業害虫として世界中で猛威を振るうバイオタイプBとQのほぼ全個体が、必須共生細菌、Portieraに加え、任意共生細菌、Hamiltonellaにも感染していることが判明した。Hamiltonellaはウイルス媒介への関与が報告されているが、その体内での感染実態には不明な点も多い。そこで、タバココナジラミの各成長段階における各共生細菌量(定量PCR)、局在(In situ hybridization)について調査を行った結果、PortieraとHamiltonellaは共に幼虫段階で増加するが、成虫以降、加齢によって同様に減少すること、また、これら2種の細菌は同一の菌細胞内に存在するものの、明確な棲み分けが存在するという、他の昆虫内部共生系には見られない非常にユニークな特徴をもつことが判明した。さらに、その棲み分けが小胞体様の構造によってなされていることも判明した(免疫染色)。これらの棲み分けを制御する分子機構は、タバココナジラミ特異的な新規防除ターゲットになりうると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象となる害虫種の安定・効率的な飼育法を開発し、その内部共生細菌を詳細に明らかにすることで、必要な解析系を確立した。また、対象をタバココナジラミにも拡大して解析を行うことで、これまで他の内部共生系では見られないような共生細菌と宿主との関係性を明らかにすることに成功した。得られた成果は、複数の研究集会や学会、国際学会において積極的に発表しており、成果の普及に努めた。発表内容については、いずれの集会においても高い評価を受けることができた。これまでに、2回の招待講演の他、2報の総説の依頼も受けた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画にあったモモアカアブラムシの他、同じく体内に複合共生系を有する吸汁性農業害虫であるタバココナジラミも対象生物に加え研究を行う。どちらの昆虫も吸汁に加えて植物病原ウイルスの媒介を行う事が知られており、世界中で農業に及ぼす被害は甚大である。また、別種の菌細胞内共生系を比較することにより、昆虫内部複合共生系における普遍性と多様性についての重要知見が得られることも期待される。次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析技術、さらにはケミカルバイオロジー解析など多様な手法を有機的に組み合わせることにより、これらの昆虫体内で行われている共生メカニズムの詳細な解明を試みる。これにより、各農業害虫にのみ選択的に効く、環境に優しい新規防除法の開発の基となる、基礎的知見の収集を目指す。
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Research Products
(6 results)