2012 Fiscal Year Annual Research Report
生体用チタン合金の六方晶マルテンサイトによる超弾性発現機構の解明と展開
Project/Area Number |
12J09335
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
篠原 百合 東京工業大学, 大学院・総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 形状記憶・超弾性 / 生体用材料 / チタン合金 |
Research Abstract |
Ti-Niに匹敵する巨大超弾性歪みの発現を実現するために,六方晶マルテンサイト相(α'相)に起因する超弾性を発現する可能性のあるβTi-Au-Cr-Zr合金に着目した.本年度は,相変態時に形成されるマルテンサイト相の結晶構造を精密に検討するために,まず,合金組成を系統的に変化させたTi-Au-Cr-Zr合金を作製し,相構成の解明と格子定数の精密測定を行った.その結果,本合金に形成されるマルテンサイト相は斜方晶(α"相)に分類される結晶構造を有するものであることが明らかになった.しかし,本合金のα"相とα'相のc/a値の差は-2.9%であり,これは過去に超弾性の発現が報告されているTi-24Nb-3Al(at%)合金における差の-14%と比較すると非常に小さく,Ti-Au-Cr-Zr合金のα"相の結晶構造は六方晶に極めて近いことが判明した.これにより発生する格子変形歪みの最大値は,Ti-Niの格子変形歪みに匹敵する-9.6%と評価できた.形成されるマルテンサイト相が六方晶に限りなく近いにもかかわらず超弾性が発現した理由として,試料内に残留する母相の影響を考えた.検証のために,室温における構成相が母相単相で,かつ,超弾性が発現する試料を用い,これを冷却により母相からマルテンサイト相に完全に変態させ,その状態で形状記憶効果が発現するのか検証を試みた.しかし,液体窒素温度でのXRD測定の結果,冷却してもマルテンサイト変態は起こらず,母相を完全に消失させることは困難であった.そこで,溶体化後,室温下の構成相がマルテンサイト相単相となる試料を作製して同様の試験を行った.その結果,母相が残存しなくても形状記憶効果を発現することが明らかになった.すなわち,本合金のように六方晶に極めて近いマルテンサイト相においても形状記憶効果が発現できること,および,本合金の形状記憶効果の発現は,残留母相に因るものでないことを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
透過型電子顕微鏡用の試料作製が困難なため.合金が耐食性に優れる金(Au)とクロム(Cr)を含むため,酸による腐食が困難である(ジェットポリッシュ法).現在,切削による加工(ディンプルグラインダ法)を検討しているが,加工時の応力で試料の相構成が変化する可能性があるため,加工条件を慎重に検討する必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
透過型電子顕微鏡による観察で,以下を明らかにする予定である. (1)X線回折測定(XRD)によってマルテンサイト相単相とされている試料の内部組織 (2)超弾性が発現する試料の応力負荷→除荷時の内部組織 (1)は完全にマルテンサイト単相である試料を得られているかの確認(2)では超弾性発現時のマルテンサイトと母相間のバリアント選択性を明らかにすることが目的である.
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