2012 Fiscal Year Annual Research Report
金属への水素侵入および吸蔵機構原子過程に関する研究
Project/Area Number |
12J09548
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大野 哲 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 水素吸蔵合金 / 水素化触媒反応 / サブサーフェス / 金属水素化物 / 表面水素 |
Research Abstract |
(1)表面下への水素侵入、蓄積のモデル化 これまでに明らかにした水素吸収機構(吸着水素の表面下侵入と、気相水素による表面空きサイトの再占有という協調現象)について、気相水素と吸着子との配置の交換を取り入れたモデルを構築した。吸着子に対して同位体標識付けした実験の結果を比べることで、水素侵入前には、気相由来の水素原子と吸着子がほぼ自由に交換していることを明らかにした。さらに水素の侵入流量と拡散量を速度論的に立式し、共鳴核反応法(NRA)から実験的に求められていた表面下水素濃度の温度依存性を記述することに成功した。 (2)脱離水素分子の回転状態分光測定 Pd(110)内部に吸収された水素が熱脱離する際の内部状態分布を、多光子共鳴イオン化法(REMPI)により測定した。 これにより、低い回転状態(J<3)ではほぼ脱離温度での熱平衡分布に従っているのに対し、高い回転状態(J>3)は熱平衡分布と比べて強く占有されていることを見出した。これは脱離過程が分子回転とエネルギーのやり取りをしていることを意味し、逆過程である水素侵入は回転状態からのエネルギー遷移により促進されていることを示唆する。この原子ダイナミクスの観察は、水素侵入・脱離過程のポテンシャル面の理解に向けて大きな前進と言える。 (3)表面下水素によるブテン水素化触媒反応実験 Pd触媒による炭化水素不飽和結合への水素付加反応では、表面下水素の必要性が知られていたが、その役割や有効な深さなどは未解明であった。本研究でPd(110)の表面、一層下、表面近傍(~nm)、バルク(>100nm)に水素を分布させる方法を見出していたため、これら各水素種のブテン水素化触媒反応における役割を検討した。結果、一層下の水素がPd-ブテンの吸着を弱め、反応を活性化させることを解明した。二層目以下の水素はその深さ分布は重要ではなく、反応によって消費される表面の水素を補填する役割を負っていることを考察した、このように高活性触媒の開発に向けて重要な知見を得た,
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
侵入・脱離機構の解明では、原子レベルでの詳細な素過程にまでアプローチすることに成功しており、実験グループとしては世界最高峰にある。特に脱離時の水素回転状態分布が熱平衡と大きく異なることの発見は重要であり、長い間待たれていた突破口になるものと期待している。原理的にレーザー光の波長を変えることでより広範囲の回転状態をプローブすることができ、鋭意取り組んでいるところである。また水素付加触媒反応において一層下水素が果たす役割については従来のナノ粒子による実験では予想だにしなかったことであり、単結晶というよく制御された試料へ、NRAによる深さ分解能を有効活用した本研究でなしえた貴重な発見となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
Pdは水素を発熱的に吸収するため平衡濃度は低温ほど高くなり、この領域での知見は吸蔵合金の開発で重要となる。しかし反応速度の指数関数的減少が起こるため、低温域での相図はこれまでに調べることができていない。本研究ではNRAによる深さ分解能を利用し、測定領域を表面付近に限定することで初めて低温域でのH-Pd相図を作成することを目指す。さらに、測定領域を表面極近傍(数nm)にすると、サブサーフェス領域での相図を得ることもでき、バルクとは異なる新しい相図が得られる可能性に期待が持てる。 すでに行った予備的な実験により用いるべき水素圧力を割り出すことに成功し、また現実的な時間スケールで疑似的な平衡状態に達することが確認できた。今後、温度・圧力・深さごとの到達濃度を測定することで、新規な知見を得られるものと考えている。
|
Research Products
(6 results)