Research Abstract |
CERNにある1HCは今年度にわたり順調に稼働し,数々の実験データを提供した.特に,7月4日には標準模型における最後の粒子,ヒッグス粒子が発見され,素粒子物理学は新たな局面に突入した.このような現在の状況で重要となるのは,LHC実験のデータを,非加速器精密測定実験や宇宙論的観測結果実験と共に考慮することで,標準模型を超える物理を探っていくことである.そこで,考えるべき非加速器実験として,私は,中性子電気双極子モーメント(EDM)測定実験,陽子崩壊実験,暗黒物質直接探索実験に特に着目し,研究を行った.これらの量は,種々の量の精密測定を行うことで,加速器では到達し得ない高いエネルギースケールを探ることができると考えられているものである.まず,私は,QCD和則,およびカイラル摂動論と呼ばれる方法をそれぞれ用いて中性子EDMと高エネルギーの理論におけるCP対称性の破れとをつなぐ関係式を導出する仕事を行った.計算の際に必要となる低エネルギーQCD定数の値に対し最新の格子計算の結果を用いることで,従来よりも信頼性の高い計算結果を得ることができた.これらは共に学術誌に掲載済みである.また,超対称性大統一理論において,中間スケールに新たな粒子があった場合,陽子崩壊の寿命がどの程度短くなり,現在の実験からどの程度制限されているかを論文にまとめて発表した.結果として,中間スケールの粒子がある程度あった場合,陽子崩壊率は現在の実験で制限されるほど高くなることがわかった.暗黒物質直接探索実験については,超対称性スケールが高い場合の模型に関して,暗黒物質の直接検出率の精密計算を行った結果を論文に投稿した.結果として得られた断面積は,将来実験で探索しうる大きさであるとわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は,LHCが順調に稼働し,様々な実験データが提供された.特に,ヒッグス粒子が観測され,その質量がおよそ125GeVと定まったことは非常に重要な進展である.これらの結果をうけて,現在の状況がどのような素粒子模型を示唆しているのかを考察することが可能になり,新たな研究を開始するきっかけとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までのLHC実験で超対称性粒子が発見されていないこと,ヒッグス粒子が125GeV程度と超対称標準模型としては比較的重いものであったこと,などを踏まえると,超対称性のスケールが電弱スケールと比較して高いであろうことが示唆されている.この場合,稀崩壊過程等の精密測定実験を通して超対称性のスケールを同定することが重要である.具体的には,超対称性のスケールが高い場合に陽子崩壊や中性子電気双極子モーメントがどのくらいの値にでるのか精度よく予言し,実験と比較してパラメーター領域に制限をつけていくことを近い将来の課題としたい.
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