2012 Fiscal Year Annual Research Report
発明と資本主義社会をめぐる思想史的研究--ガブリエル・タルドの理論を中心に
Project/Area Number |
12J10217
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
中倉 智徳 大阪府立大学, 人間社会学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 発明の社会学 / イノベーション論の批判的検討 / ガブリエル・タルド / 認知資本主義 / 発明と模倣 / 社会思想史 / 社会学史 / 世紀転換期 |
Research Abstract |
本研究は、ガブリエル・タルドの理論を中心としながら、19世紀後半から20世紀初頭にかけての発明と資本主義社会に関する議論の系譜を思想史的に明らかにし、従来の対立を越えて、新たな社会分析の視角として確立させることを目的としている。資本主義を発明によって分析しようとする観点そのものの歴史性を問う研究は、その重要性にもかかわらずこれまでなされておらず、その欠落を埋め、社会と経済の関係を改めて検討するための新たな視角を与えるという意義をもっている。具体的な計画としては、(1)タルドと、マルクス、シスモンディ、クールノーの比較のなかで資本主義発展と発明をめぐる論点の析出、(2)タルドとシュンペーターの比較とその影響関係の検討を挙げていた。 本年度の成果は以下のとおりである。(1)については、検討を進めていくなかで、アルフレッド・マーシャルとタルドとにおけるイノベーションを巡る議論の検討が必要であるだろうという成果が得られた。この点については次年度以降に引き続き検討していく。(2)については、経済学史およびシュンペーター研究を検討し、影響関係についての検討を行なった。本年度は、計画にあるタルドとシュンペーターの比較の延長線上にあるテーマで最も進展した。イノベーションを概念史として検討しているBenoit Godinの研究を参考にして、シュンペーターへの系譜以外にも、タルドからシカゴ学派の社会学者のオグバーンやジルフィランらを代表とする発明の社会学の系譜が見られることを明らかにした。かれらの発明の社会学は、発明が生じたことの社会的影響についての検討を行なうものであり、1960年代以降に論じられるテクノロジー・アセスメント論の先駆として評価しうるものとして提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を遂行していくに従って、具体的な検討対象の変更もあったが、発明と資本主義社会に関する議論の系譜を思想史的に明らかにするという目的そのものの実現にむけて具体化していった結果であるため、おおむね順調に推移していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでタルドを中心として、発明と資本主義社会に関する議論の系譜を思想史的に明らかにするべく研究をすすめてきたが、タルド以降の系譜については明確化されつつあり、このまま継続して具体的な成果として発表していく。タルド以前の系譜については、検討を続けているもののいまだに明確化されていないため、検討対象をアルフレッド・マーシャルなど、同時代の経済学者にも広げ、系譜の有無を検討していきたい。
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