2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J10677
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
土井 昭宏 筑波大学, 大学院人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 内在性レトロエレメントLINE-1 / Vpr / HIV関連神経認知障害 |
Research Abstract |
近年のエイズ治療薬の開発によってヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者の生命予後は著しく改善した。しかし、HIV関連神経認知障害(HAND)が臨床上の問題となりつつあり、その原因として、中枢神経系に感染したウイルスから産生されるウイルスタンパク質の関与が示唆されている。本研究では、HIV-1患者血中に存在し、HANDの病態に関与する可能性が示唆されているviral protein R (Vpr)タンパク質に着目して解析を行なっている。私が所属する研究室のこれまでの解析から、Vprは内在性レトロエレメントであるlong interspersed element-1 (LINE-1 ; L1)の転移(L1-RTP)を誘導することが示唆されている。このような背景の中で私はまず、リコンビナントVpr (rVpr)を腹腔内投与することで、中枢神経系組織でL1-RTPが誘導されることを明らかにした。そして、モリス水迷路実験システムを用いて中枢神経系機能に対する作用を解析したところ、rVprを週3回、間欠的に連続投与すると記憶想起障害が誘発され、この現象が逆転写酵素阻害剤であるスタブジン(d4T)の同時投与で抑制された。一方、患者血中のL1-RTP能を評価したところ、解析した症例の40%にL1-RTP誘導能が検出され、その活性は抗Vpr抗体で中和されることが分かった。以上の結果は、rVprがL1-RTPを介して脳内環境を変化させるとともに、患者血中に存在するVprも同様の現象を誘発している可能性を示唆する。そこで本研究では、RT阻害剤を用いた実験結果を分子レベルで検証するため、マウスL1の動きを遮断する分子を導入したTgマウスを作成し、Vprによる学習記憶障害誘導の有無を検証する。L1-RTPを抑制する内在性因子の同定と並行して、Vpr誘発アポトーシスにおけるL1-RTPの関与について、d4Tを用いて培養細胞系で解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、HIV関連軽度認知障害が、HIVタンパクであるVprによる内在性レトロトランスポジション(L1-RTP)が引き金となる神経細胞のアポトーシスに起因すると考え、実験を進めている。その上で、L1-RTPを特異的に抑制する因子の同定および、L1-RTPと神経細胞のアポトーシスとの関連に関して解析を行っている。 L1-RTPを特異的に抑制し得る因子について、候補遺伝子の同定を行う事が出来た。候補遺伝子に関して、L1抑制能を有し、かつ細胞毒性が見られないことを確認した。 VprによるアポトーシスとL1-RTPとの関連について、アポトーシス誘導因子であるSTAT1のリン酸化およびグルタミン酸の産生が、L1-RTPの阻害剤である逆転写酵素阻害剤で抑制される事を培養細胞系で明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
A. L1-RTPを抑制する内在性因子の同定 : これまでに私は、マウスL1-ORF2に由来し、マウスL1及びヒトL1の何れの動きも抑制可能なcDNA断片(ドミナントネガティブ因子、以下L1-DN断片)を同定した。さらに、L1-DN断片L1-DN断片と相互作用する遺伝子産物の同定を行い、その遺伝子産物の過剰発現によってL1-RTPを抑制できないかを検討した。L1-DN断片に特異的に結合する蛋白質について、MS解析を行い、遺伝子産物を同定した結果、mouse gamma-actin (mACTG1)が候補遺伝子として同定された。mACTG1はL1-DNとの特異的な結合が認められ、L1-RTP抑制能を有する事、細胞毒性が見られない事を確認した。今後、L1-DN断片およびACTG1がVpr誘発アポトーシスを抑制し得るか、発現マウスを作製可能かについて検討を行う。 B. Vpr誘発アポトーシスにおけるL1-1-RTPの関与 : 近年、HIVを感染させたミクログリア(マクロファージ様細胞)からI型インターフェロン(IFN)が産生され、その結果惹起されるSTAT-1のリン酸化を介して、神経細胞のアポトーシスが誘導されることが報告された。そこで、マクロファージ様細胞にrVprを添加したところ、IFN-mRNA産生が上昇することやSTAT-1のリン酸化が誘導されることを見いだした。さらに、rVprによるIFNの産生は、d4Tの添加によって約40%抑制されるとともに、STAT-1のリン酸化も抑制された。神経細胞のアポトーシス誘導因子であるグルタミン酸を産生する酵素として、グルタミナーゼCが知られている。rVpr添加によるグルタミナーゼCのタンパク発現に関しても、rVpr添加によって発現が上昇し、d4Tによって抑制されることを明らかにした。また、マクロファージ細胞内のグルタミン酸濃度の定量的解析を行った結果、グルタミナーゼCのタンパク発現量解析と同様の結果が得られた。今後、逆転写DNA産物のセンサーとして知られているcGASをノックアウトした細抱クローンを用いて、より詳細にVprによるL1-RTPとアポトーシスとの関連を明らかにしていく。
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Research Products
(1 results)
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[Journal Article] Retrotransposition of long interspersed element-1 by viral protein R of human immunodeficiency virus type-12013
Author(s)
Kenta Iijima, Noriyuki Okudaira, Masato Tamura, Akihiro Doi, Yoshikazu Saito, Mari Shimura, Motohito Goto, Akihiro Matsunaga, Yuki Kawamura, Takeshi Otsubo, Taeko Dohi, Shigeki Hoshino, Shigeyuki Kano, Shotaro Hagiwara, Junko Tanuma, Hiroyuki Gatanaga, Masanori Baba, Taku Iguchi, Motoko Yanagita, Shin-ichi Oka Tadashi Okamura and Yukihito Ishizaka
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Journal Title
Retrovirology
Volume: 10
Pages: 83(1-16)
DOI
Peer Reviewed