Research Abstract |
本研究は,培地と酸素吸収源をポリジメチルシロキサン製の半透膜を介して接触させる方式により,マイクロ流体チップ内の酸素分圧が長期間,任意の値に定値制御可能な系を構築し,チップ内でES細胞の分化誘導を行える,マイクロ流体システムの開発を目的とする.本研究で開発するマイクロ流体システムは,チップ内で長期培養を行いつつ,雰囲気制御とマイクロ流体制御の両方を可能とするため,長時間かかるES細胞の分化の過程を捉えるだけでなく,雰囲気制御と流体制御の併用により,副次的作用が心配される誘導因子の濃度を抑える手段の可能性を探ることができ,安心で経済的な分化誘導方法の確立に寄与する.また,ES細胞をワンチップ内で多種の組織の細胞に分化させる,いわゆるAnimal-on-Chipの実現が現実的になると考え,将来的には,Animal-on-Chipが細胞を用いた臨床検査・診断や,細胞が組織や臓器になるメカニズムの解明にも寄与すると考える.今年度は,酸素吸収源としてアルコルビン酸を含み,主に重炭酸塩からなるウォータージャケットで培地を覆い,少なくとも3日間は,チップ内の酸素分圧を約5%程度に定値制御できたことを,実際にチップ内の酸素分圧を測定することで実験的に求めた.酸素分圧の測定は,光学式酸素濃度測定システムを用いたセットアップを構築し,非破壊・非接触的に測定を行った.開発したチップには,実際にラット由来肺胞II型上皮細胞を導入し,チップ内の酸素分圧が約5%(二酸化炭素分圧は約5%)の雰囲気下で,3日間の培養を達成した.また,ES細胞のような幹細胞とならんで,ガン化した細胞よりも培養が難しいとされる神経細胞の初代培養を,開発したマイクロ流体チップ内の酸素分圧が約21%(二酸化炭素分圧は約5%)の雰囲気下で約2週間にわたり行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,チップ内の雰囲気制御を行うマイクロ流体システム開発のための基礎研究として,主に,マイクロ流体チップの設計・試作と酸素分圧測定系の構築を行い,実際に開発したチップを用いて,チップ内の酸素分圧が約5%の低酸素下でラット由来肺胞II型上皮細胞の長期培養を達成した.これより,ES細胞の選択的分化誘導のためのシステムの基礎は,確立したと考える.今後は,チップ内の低酸素雰囲気下でES細胞を長期培養しながら,神経細胞への分化誘導を行う.このチップは,独立性と気密性,運搬性を兼ね備えているため,現在の段階でも病原性ウイルスの運搬や採取への応用など,予想外の波及効果があり,今後の研究推進がより重要であると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
酸素吸収源としてアルコルビン酸を含み,主に重炭酸塩からなるウォータージャケットで培地を覆うことで,チップ内の酸素分圧を調節できることが明らかになったが,ウォータージャケットに含まれるアルコルビン酸の濃度を変更した際に,チップ内の酸素分圧をどの程度調節できるかを,より詳細に調査する必要がある.ウォータージャケットに含まれるアルコルビン酸の濃度が低い場合,低酸素状態を数時間から1日程度しか維持しない結果が得られており,アスコルビン酸の濃度と,酸素分圧・定値制御の持続時間の関係性を実験的に測定し,検証する.また,チップ内に導入するES細胞の初期細胞数が,その後の生育や胚様体の形成に大きく影響を及ぼすと推察されるため,ES細胞の初期細胞数と胚様体形成の関係を検証し,チップへの播種操作等の最適化を行う.
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