2014 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳子牛における第四胃凝乳機構の生理的意義と消化器疾患との因果関係の解明
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12J40129
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
宮崎 珠子 岩手大学, 農学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 新生子牛 / 第四胃 / カード形成 / 初乳 / 免疫グロブリン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、哺乳子牛特有の第四胃の凝乳機構の生理的意義と消化器疾患との因果関係を解明することを目的に研究を進めてきた。 最初に、健康な新生子牛4頭における初乳哺乳後の第四胃内凝乳状態を精査した。全頭で、第四胃の超音波検査により初乳が良好なカード形成を示すことが明らかになった。また哺乳後4時間の平均免疫グロブリンG(IgG)濃度が、22.4g/Lに達していることが明らかになった。 次に、新生子牛に無処置の初乳と調整したホエーを給与して比較した。初乳に凝乳酵素を加えると、乳タンパク質であるカゼインと脂肪を主体とした固体と、カゼイン以外のタンパク質やミネラルを含む液体に分かれる。ホエーはその液体部分を指し、初乳中のIgGは移行しているが、カゼインが消失しているため、さらに凝乳することはない。このホエーと初乳を哺乳した子牛を比較することで、カード形成の有無による影響を明らかにできると考えた。そこで11頭の新生子を、無作為に2群に分け、7頭に凝乳する初乳を、4頭に凝乳しないホエーを、生後3時間以内に2リットル哺乳させた。哺乳後6時間に採血し、IgG濃度を測定した。給与した初乳のIgG濃度は、初乳で54.54g/Lで、ホエーで59.42g/Lで差はなかったが、哺乳後6時間の血液中IgG濃度は、凝乳する初乳を哺乳した子牛では3.94±0.65g/Lで、凝乳しないホエーを哺乳した子牛で1.91±0.24g/Lで、有意な差があった。 以上の結果から、初乳が新生子牛の第四胃内でカード形成することと、カード形成の有無が初乳からのIgGの吸収に影響していることが明らかになった。本試験で得られた新知見は、健康な子牛の育成には欠かせない初乳からのIgG吸収に影響する因子を明らかにし、子牛の消化生理を理解した上で、効果的な初乳給与を実現し、子牛の育成技術を向上するものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に記載した実験を実施し、論文執筆が可能になるまでデータの解析を進めたという点で、研究はおおむね順調に進展したと評価した。これまで子牛の凝乳機構の研究は、生後数日から2週間以内の子牛で行われるのが一般的であったが、生後1日以内の子牛に着目して、初回の初乳摂取から第四胃のカード形成が行われていることと、カード形成した子牛の方が、カード形成しない子牛より免疫グロブリンの取り込み量が多かったことを明らかにすることができた。 しかしながら、実験で得られたデータを現在も解析中のため、研究実施計画に記載した内容の一部を実施した状態である。また人為的なカード非形成牛の作出に胃酸分泌を不可逆的に抑制するプロトンポンプインヒビターの投与を行い、凝乳酵素の前駆体が活性型になることを抑える実験を計画していたが、実際の子牛を用いた予備試験において、プロトンポンプインヒビターが作用するタイミングとカード形成のタイミングを合わせることが難しく、計画通りに行かなかった部分もあった。その代替案として、哺乳する飼料として初乳とホエーを用いて、それぞれを哺乳した子牛の血液データを比較した実験を実施した。その結果、カード形成の有無が初乳からのIgGの吸収に影響することは明らかにできた。しかし、この実験は生体に起こりうるカード形成不全を予想したものではなく、カード形成の有無に限局した結果となっている。またカード形成と下痢との関連性に関しても、研究を進めていく必要がある。 以上から、現在までの研究の達成度としては、おおむね順調に進展していると判断した。今後、さらに研究を発展し成果を出せるよう、努力していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
長年の研究から、豊富なIgGを含む良質な初乳の給与は、健康な子牛の育成に必要不可欠だということが明らかになっており、生産者、農業関係者、研究者の間で常識となっている。子牛は胎盤からの移行抗体がないため、初乳からの充分なIgGの摂取および吸収が、様々な病原体からの感染を予防し健康を維持している。第四胃のカード形成は、乳汁中のタンパク質をカードとなるカゼインと、IgGを含むホエータンパク質に分けるため、カード形成がIgGの吸収に深く関与している可能性が考えられる。しかしながら、初乳からのIgGの吸収と第四胃のカード形成との関係ついて研究した報告は少ない。 これまでの実験で得られたデータをもとに、初乳におけるカード形成について公表できた暁には、第四胃液中の凝乳酵素キモシンの分泌量の測定や、その遺伝的背景の解析を行い、新たな視点から第四胃のカード形成能を制御する生体側の要因の解明をめざし、研究を発展させたいと考えている。またカード研究において、第四胃でのカード形成状態と下痢などの表現型との間には時差があり、生体を使った実験や調査において、その因果関係を明らかにすることが難しい。しかしながら、哺乳子牛に頻発する下痢症とカード形成の因果関係については、畜産現場関係者や獣医畜産領域の専門家のあいだでも注目されている点であり、取り組む価値があると考える。そこで子牛の下痢の治療に用いられる電解質が第四胃のカード形成に及ぼす影響や、病原体に汚染された乳汁を摂取した場合のカード形成の有無と感染の成立の有無などについて、科学的な証拠を得られるように新たな実験計画を立てていきたいと考えている。
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