Research Abstract |
本研究では, 海洋の炭素循環の重要な担い手である浮遊性有孔虫の, 過去における高い種絶滅率および種分化率の背景となる海洋環境を明らかにするため, 溶存酸素濃度・硫化水素・pHが浮遊性有孔虫に与える生物的影響について, 生息環境をコントロール可能な飼育実験手法を用いて検証する. さらに, 当時のみでなく近未来に懸念されている, 二酸化炭素濃度上昇に伴う海洋の酸性化や, 温暖化に伴う貧酸素化についても, 浮遊性有孔虫の飼育実験結果を基に, 炭酸塩生産の将来的な影響について解明する. そして, これらの飼育実験の結果を基に, 過去から将来までを通じた, 海洋の酸素状態・pH変化に起因する, 海洋表層の炭酸塩生産を担う浮遊性有孔虫への影響評価を行うことを最終的な目的とする. 研究の2年目である本年度は, 世界で初めての試みとなる, 溶存酸素濃度をコントロールした浮遊性有孔虫の飼育実験結果についてまとめた上で, これらの飼育結果を基に白亜紀の無酸素事変の背景となる古環境について考察し, 国際学術誌上で発表した. そして, 生息環境が少なくともdysoxicのレベルにおいては, 溶存酸素濃度が, 白亜紀の海洋無酸素事変における浮遊性有孔虫の直接的な絶滅要因にはならないと考えられ, 今後は硫化水素による影響の解明が求められることを提示した. さらに, これらの結果を基に, 浮遊性有孔虫とは異なる生物を対象とする複数の硫化水素飼育実験施設を見学し, それぞれの飼育実施者と浮遊性有孔虫に応用する際の問題点の議論を行い, 実際に飼育する場合の安全性の確保および飼育環境制御の方法について検討した. そして, 複数の飼育容器や実験手法を組み合わせ, 浮遊性有孔虫飼育に最適な, 硫化水素濃度コントロール手法および容器密閉度を検証する予備実験を行った.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の2年目である本年は, 本研究の根幹をなす溶存酸素濃度を変化させた浮遊性有孔虫飼育実験の結果およびこれを基にした白亜紀の古環境変化への考察をまとめ, 国際学術誌に発表した. またこの論文の次のステップとなる浮遊性有孔虫の硫化水素飼育実験について予備実験を行い, 安全性を確保した上で飼育環境中の硫化水素濃度をコントロールする技術を検証・確立した.
|
Strategy for Future Research Activity |
研究の3年目では, 2年目までに確立した硫化水素濃度を変化させて行う飼育技術を実際の飼育現場に応用し, 野外から採取した浮遊性有孔虫を用いて異なる硫化水素濃度下での飼育実験を行う. またこれらの実験と並行して, これまでの溶存酸素濃度を変えた飼育実験結果を古海洋環境に応用した考察をさらに発展させ, より一般的な白亜紀の無酸素事変時の地球環境と生物絶滅・進化についての考察をまとめ, 国際学術誌に投稿する.
|