2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13021221
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas (A)
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
徳永 洋介 富山大学, 人文学部, 助教授 (10293276)
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Keywords | 元代 / 法律 / 書籍・出版 |
Research Abstract |
洪武30年(1397)の明律をはじめ、明初の法制がさまざまな側面で元制の影響を色濃く残しながら、唐律とは異なる体系を打ち出したことについては、これまでもたびたび指摘されてきた。しかし、その具体像となると、いまだ十分に究明されてきたとは言いがたい。 この点で格好の手がかりを与えてくれるのが、当時盛んに出版された法律書にほかならない。元朝では1271年の泰和律の廃止にともない、これに代わる基本法典も編纂されないまま、各官衙で随時累積してゆく条格・断例を収録・整理しておき、これを先例として用いる方法が採られた。このため関係部局ごとに必要な格例はそれぞれ彪大な例規集として纏めてあるものの、実務に通じた胥吏に勝手な法運用を許すばかりか、前例にない事柄にはたちまち対応に窮するありさまで、刊行物として流布しているものでさえ、せいぜい10年から20年でその半ばが反古同然になるため、かえって現行法の周知徹底が妨げられる事態も生じていた。これに対し、各種法令の整理作業において国家の関与が本格化するのは、1307年のことである。官民連携の所産とはいえ、『元典章』が江西の地で出版され、ついで『大元通制』が政府から頒行されたのは、こうした気運をうけたものとして重要な意義をもつ。ただこれらは依然として随時出される法規や案牘を発布年月を記したまま採録した実用本位の編纂物に過ぎず、元末においてすら全体としての不統一は解消されなかった。それは宋代の例冊と同じく、副次的な機能しかもたない法規集にのみ見られる特徴であり、いくら網羅的な内容を有していようと、元代の法律書はこれと同じ次元にたつ実用書に過ぎず、厳密な意味での法典ではなかった。このことは当時の法制用語を解説した『吏学指南』や各種法律知識を収めた日用百科全書とも相通じるものであり、実務家の手引きとしての目的を優先させた書物のあり方には、当時の社会の気風が如実に現れている。
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