Research Abstract |
肺腺癌に特異的な遺伝子変化,あるいは肺腺癌の生物学的挙動に関連した遺伝子変化を同定する目的で,肺腺癌の発現プロファイルの解析を進めている. 1)炎症・創傷治癒に関連した遺伝子としてS100蛋白ファミリーに注目した.肺の正常上皮細胞株と肺腺癌細胞株7株におけるS100 family蛋白16種類の発現を比較した結果,最も顕著な違いを示すものはS100A2,S100A4,S100Pであった.小型肺腺癌手術症例における免疫組織化学的な検討では,S100A2陽性症例は予後良好の傾向がみられたが,S100A4陽性例では予後不良であった.さらに,S100A2,S100A4について,A549肺腺癌細胞株を用い,遺伝子導入による発現増強によって下流遺伝子の同定を行った.その結果,S100A2下流には増殖,アポトーシス関連遺伝子が含まれており,また,発現が変動する遺伝子の多くは,細胞表面の膜内蛋白であった. 2)肺腺癌瘢痕部での癌細胞の挙動を探る手がかりとして,低酸素ストレスによって誘導される肝腺癌細胞の生物学的挙動の変化,遺伝子発現変化について検討した.A549肺腺癌細胞株は低酸素状態では,増殖抑制,細胞接着の低下,紡錘状形態変化を示す一方,運動能の亢進がみられた.低酸素下24時間,48時間後の遺伝子変化を網羅的に解析したところ,hexokinase2(glycolysisのrate limiting enzyme),VEGF, LOX, LOX like 2などの遺伝子において発現増強がみられた.一方,遺伝子機能database(Gene Ontology)を用いた解析により,発現が低下している遺伝子群には,DNA修復に関連するものが含まれていることが判明した. 3)Expression Imbalance Mapによる肺腺癌細胞株のトランスクリプトーム解析を行い,ゲノム上共通して発現の低下している領域より癌抑制遺伝子の候補遺伝子を100個同定した.さらにSNIPを利用した新たなアルゴリズム,マイクロダイセクションの微小検体のトランスクリプトーム解析を組み合わせ,高解像度で癌抑制遺伝子の候補遺伝子の絞込みを行っている.
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