2003 Fiscal Year Annual Research Report
日本音楽・芸能をめぐる異文化接触メカニズムの研究-1900年パリ万博前後における東西の視線
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13410018
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Research Institution | Aichi Prefectural University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
井上 さつき 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 教授 (10184251)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 裕 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (80167163)
寺内 直子 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (10314452)
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Keywords | 異文化接触 / 1900年パリ万博 / 川上音二郎・貞奴 / 日本音楽 / レコード録音 / 日本の民謡 / ロイ・フラー / ジャポニズム |
Research Abstract |
本研究は、19世紀末から20世紀初頭にかけての日本と西洋の文化接触の実態を分析することにより、異文化接触のメカニズムを解明することを目的として行なわれた。 井上は、川上一座のヨーロッパ公演における実態を、パリ万博時の日本音楽に関する論文等から明らかにし、さらに、彼らを招聘した舞踊家ロイ・フラーと川上一座との芸術面での関連性についても考察した。コンパクトにまとめられた川上一座の演目が米国出身のロイ・フラーの前衛的な舞踊と組み合わされて上演されたことにより、ヨーロッパ人にとっては二重の異文化接触が起こり、一座の演目が単なる「珍奇な見世物」の次元を超えた衝撃を観客に与えたことが明らかになった。 寺内は、川上一座のヨーロッパ公演における音楽的な実態を、近年復刻されたCDおよび20世紀初頭の日本音楽に関する論文から明らかにした。それによると、音二郎らが演じたと思われる音楽や劇は、既成の邦楽曲や歌舞伎のストーリーを換骨奪胎し、ヨーロッパ人に分かりやすく演出が工夫されたものであった。また、彼らの公演は、会場に足を運んだ観客に日本の音楽や劇を紹介する以上に、ヨーロッパにおける音楽研究者に多大な材料を提供した、という意味において、20世紀のヨーロッパにおける日本音楽研究の進展に大きく貢献した、と言える。 渡辺は、日欧の音楽面での文化交流史を物語る貴重なドキュメントであるベルリンのPhonogramm-Archiv所蔵の初期日本録音音源の中に1910年代前半に録音された一連の《追分》関連の音源が含まれていることに着目し、それを題材とする研究を行った。日本の民謡が西洋との文化接触の中で近代化・再編成されてくるプロセスの中に位置づけてみるとき、これらの録音は、その直後の時代に急速に進行した近代化・再編成過程にいたる以前の民謡をめぐる状況の一端を示しているとともに、レコードというメディアの登場、とりわけ西洋人による録音・採集という活動の展開が、その近代化・再編成プロセスの大きな動因になったことをも示していることが明らかになった。
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[Publications] 井上さつき: "1878年パリ万博音楽展"愛知県立芸術大学紀要. 33. 17-34 (2003)
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[Publications] 寺内直子: "音盤に聴く二○世紀初頭の日本音楽"歴博. 117. 15-19 (2003)
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[Publications] TERAUCHI, Naoko: "Western impact on Traditional Music : 'reform' and 'universalization' in the modern period of Japan"Journal of Chinese Ritual, Theatre and Folklore. 141. 13-53 (2003)
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[Publications] WATANABE, Hiroshi: "Music of Geisha and Record Industry : An Inquiry Concerning Modernization Process of Japanese Culture"The Great Book of Aesthetics : Proceedings of the 15th Congress of Aesthetics(ed.by Organizing Committee of the 15th International Congress of Aesthetics). (CD-ROM). (2003)
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[Publications] 渡辺 裕: "グローバル化の中の『日本歌劇』:『帝劇歌劇部』の活動の再評価のために"自然と文化. 74. 52-59 (2004)