2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13410141
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
大城 光正 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (40122379)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 潤 筑波大学, 文芸・言語学系, 講師 (60288850)
吉田 和彦 京都大学, 大学院・文学研究科, 教授 (90183699)
|
Keywords | 楔形文字 / ヒッタイト語 / 能格 / 奪格 / フルリ語 / 言語接触 / 閉鎖音 / tense : lax |
Research Abstract |
印欧系楔形文宇言語のヒッタイト語の他動詞構文には、-anza語尾中性主・対格形に能格的特徴が確認される:nu-at witenanza parkunuzi「 彼はそれを(-at:対格)水で(witenanza:奪格)清める」>「それは(-at:主格)水で(witenanza:能格)清まる=水がそれを清める」。つまり、同構文では、代名詞対格標示(-at)が自動詞構文で主語の格標示と同一形であり、行為者を示す主語の格標示(能格)が具格的奪格(witenanza)で表示される。また、エマル等の周辺アッカド語(Peripheral Akkadian)にも同様の能格現象が見られる:a+ltapar-sunu私が(a-)彼らに(-sunu)送った(ltapar)」>「私が彼らにより受けた=彼らが私に送った」。このような能格的な構文は印欧語やセム語の祖語からの継承ではなく、他の言語との接触による新規の形成である。古代オリエント地域には非印欧語系の能格型言語であるフルリ語(能格語尾-s,複数-susu;絶対格語尾-0)の基層的な影響を考慮すれば、同地域における広範な言語的接触の可能性が首肯される。また、ヒッタイト語閉鎖音のtense:laxの対立も、語頭と語末のシングル表記における有声:無声対立の表記上の消失、逆に語中の母音間子音のダブル表記における無声音の表出(-VCCV-)が提示される。同表現形式は同様にアッカド語においても散見される:gaP-Pa「すべて」,iT-Tu-ru「彼らは退却した」:a-Ba-su「彼の父」,mu-Du「死」等。これらの表記も古アッカド語からフルリを介した楔形文宇体系の接触導入と無縁ではない。この指摘に関しては、池田が平成13年11月にシリア・アラブ共和国に出張し、同地のアレッポ博物館でアッカド語表記の粘土板文書の文献調査を行い、同地域の言語との接触に関する重要なデータを入手してきた。以上の研究については、大城が主宰する西アジア言語研究会(第8回:平成13年12月1日:京産大)で研究成果の一部を発表している。
|
-
[Publications] 大城 光正: "後期ヒッタイト語の法律文書(KBoVl4)の編纂について"古浦敬生先生御退官記念論文集. (2002)
-
[Publications] 大城 光正: "象形文字ルウィ語の"be"動詞省略について"京都産大論集:外国語と外国文学系列. 29号. (2002)
-
[Publications] 吉田 和彦: "The Prehistory of the Hittite Particle -ti"Indogermanische Forschungen. 106号. 84-93 (2001)
-
[Publications] 吉田 和彦: "Hittite nu-za and Related Spellings"Acten des IV.Internationalen Kongress fur Hethitologie. (2002)
-
[Publications] 吉田 和彦: "楔形文字スペリングの言語学的解釈-3つの事例-"京都大学言語学研究. 20号. (2002)