2001 Fiscal Year Annual Research Report
ナラ・カシ類集団枯死被害における萎凋症状発現機構ならびに宿主の防御機構の解明
Project/Area Number |
13460064
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山田 利博 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (30332571)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 進一郎 三重大学, 生物資源学部, 助教授 (90092139)
鈴木 和夫 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (80162931)
坂上 大翼 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助手 (90313080)
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Keywords | ナラ・カシ類 / 集団枯損 / カシノナガキクイムシ / Raffaelea quercivori / クロロフィル蛍光 / 通水阻害 / 防御反応 / 感受性 |
Research Abstract |
本被害における萎凋枯死機構を明らかにするために、病原菌Raffaelea quericivoriをコナラ、ミズナラ苗木に接種した。接種部付近には通水阻害域が存在したが、接種部より離れた上部では通水機能は保たれていた。外観と蛍光量子収量Fv/Fmを指標として、菌接種により萎凋した苗木と切断放置して萎凋させた苗木を比較すると変化は類似しており、両者とも樹幹上部に水分を供給すると症状の進行が遅れた。萎凋枯死は感染部付近の局所的な通水阻害に起因することが示唆された。 防御反応に関しては、抽出成分の抗菌活性の増大は認められなかったが、被害木の材変色部の境界で沈着・閉塞物質が顕著であった。繊維領域のものはリグニン様物質を、小径道管・仮道管領域のものはペクチンを主とし、その他にフェノール物質等の成分が混合したものと考えられた。傷害後の木部では、繊維の閉塞が3日後に観察され、1週間後には繊維・仮道管の閉塞が顕著になり連続的な障壁を形成した。チロースおよびそのスベリン化、フェノール性物質の集積は2週間後に顕著になった。沈着・閉塞物質が防御組織を成していることが示唆される。 R.quericivoriに対するブナ科樹木の感受性の差異を明らかにする目的で、コナラ、ミズナラ、クヌギ、アラカシ、ウバメガシ、スダジイの苗木に接種試験を行った。コナラは7本中1本が、ミズナラは5本が枯死したが、その他の樹種には枯死はなかった。すべての枯死木からR.quericivoriが再分離され、病原性が再確認された。軸方向の変色域と枯死との間には明白な関係がなかったが、放射方向の変色はアラカシで最も小さく、ミズナラで最も大きかった。また、アラカシでは通水可能な組織が広く、ミズナラで最も狭かった。ミズナラは6樹種の中で最も通水阻害を引き起こし枯死しやすい樹種、逆にアラカシは最も感受性の低い樹種と考えられた。
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Research Products
(17 results)
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[Publications] 伊藤進一郎: "ブナ科樹木の集団枯死-菌類と昆虫の共生関係のなぞ-"日本菌学会西日本支部会報. 10. 16-22 (2001)
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[Publications] 伊藤進一郎: "カシノナガキクイムシの形態の地域間比較"中部森林研究. 50(印刷中). (2002)
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[Publications] 梶村 亘: "人工飼料を利用したカシノナガキクイムシの飼育の試み"中部森林研究. 50(印刷中). (2002)
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[Publications] Kubono, T.: "Raffaelea quercivori sp.nov.associated with mass mortality of Japanese oak, and the ambrosia beetle (Platypus querivorus)"Mycoscience. 43(印刷中). (2002)
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[Publications] 村田政穂: "Raffaelea属菌に対するブナ科6樹種の感受性の差異"中部森林研究. 50(印刷中). (2002)
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[Publications] 中根阿沙子: "コナラに対するRaffaelea属菌接種法の検討"中部森林研究. 50(印刷中). (2002)
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[Publications] 奥田章子: "ナラ類集団枯損被害発生林分におけるコナラ・ミズナラ根系について-カシノナガキクイムシの加害程度と外生菌根の形成状況との関係-"中部森林研究. 50(印刷中). (2002)
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[Publications] Yamada, T.: "Defense mechanisms in the sapwood of living trees"Journal of Forest Research. 6(3). 127-137 (2001)
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[Publications] 大和万里子: "ナラ類の萎凋枯死と通水阻害"東京大学農学部演習林報告. 106. 69-76 (2001)
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[Publications] 伊藤進一郎: "クヌギ林に対するカシノナガキクイムシの加害"日本林学会大会学術講演集. 112. 277 (2001)
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[Publications] 伊藤進一郎: "紀伊半島に発生したブナ科樹木の枯死"樹木医学会大会講演要旨集. 6. 14 (2001)
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[Publications] 村田政穂: "ナラ類集団枯死被害の発病機構-ブナ科5樹種の苗木に対する接種試験-"日本林学会大会学術講演集. 112. 673 (2001)
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[Publications] 奥田章子: "ナラ類集団枯損被害発生林分におけるカシノナガキクイムシの加害程度と外生菌根の形成状況"樹木医学会大会講演要旨集. 6. 15 (2001)
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[Publications] 奥田章子: "ナラ類集団枯損被害林分におけるコナラ・ミズナラ根系について-菌根の形態類別と菌根形成率の季節変化-"日本林学会大会学術講演集. 112. 279 (2001)
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[Publications] 山田利博: "コナラ木部の防御反応-繊維および仮道管における閉塞物質の集積経過-"日本林学会大会学術講演集. 112. 285 (2001)
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[Publications] 大和万里子: "ナラ・カシ類集団枯死の萎凋機構-ナラ菌接種木と切断木との症状の比較-"日本林学会大会学術講演集. 112. 278 (2001)
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[Publications] 伊藤進一郎: "森林をまもる-森林防疫50年の成果と今後の展望(分担:ナラ・カシ類の枯死被害に関連する菌類とその病原性)"全国森林病中獣害防除協会、東京(印刷中). (2002)